ストンメル(読み)すとんめる(英語表記)Henry Melson Stommel

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ストンメル」の意味・わかりやすい解説

ストンメル
すとんめる
Henry Melson Stommel
(1920―1992)

アメリカ海洋物理学者。デラウェア州ウィルミントンに生まれる。1942年エール大学卒業(天文学専攻)。1944年から1992年まで、途中非常勤の時期(1960~1978)はあるものの、ウッズ・ホール海洋研究所に勤務。その間、1960~1963年ハーバード大学の海洋学教授、1963~1978年マサチューセッツ工科大学の海洋学教授を務める。1948年にメキシコ湾流北大西洋の西側に幅の狭い強い海流として存在することを説明した「西岸強化」Westward Intensification理論を発表し、その後の風成海流理論の出発点となった。また、1958年には、海洋の「深層循環モデル」を提唱した。これは世界の大洋の深層の海水は、北大西洋のグリーンランド近海と南極周辺のウェッデル海の二つの限られた海域表層の海水が、冬期に冷やされたり塩分が増加したりして、その密度が増加することによって、深層に沈み込んだものであること、またそれ以外の海域では深層からの湧昇(ゆうしょう)が広汎(こうはん)に起こっていることを理論的に説明したものである。このほか黒潮、赤道海流、渦による水平混合などについても独創的な研究成果を発表し、現代海洋力学の扉を開けた先駆的な指導者であった。スベルドラップ・メダル(アメリカ気象学会、1964年)、ユーイング賞(アメリカ地球物理学連合、1977年)、デファント・メダル(ドイツ気象学会、1986年)、米国科学メダル(アメリカ、1989年)など多数受賞。『The Gulf Stream』(初版1958年、2版1965年。『メキシコ湾流』)、『A View of the Sea』(1987年。『海を観測する』)など12冊の著作がある。

[佐伯理郎]

『H・ストンメル他著、山越幸江訳『火山と冷夏の物語』(1985・地人書館)』『Henry M. StommelLost Islands : the story of islands that have vanished from nautical charts(1984, University of British Columbia Press, Vancouver)』『Henry M. StommelA View of the Sea:a discussion between a chief engineer and an oceanographer about the machinery of the ocean circulation(1987, Princeton University Press, Princeton, N.J.)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ストンメル」の意味・わかりやすい解説

ストンメル
Stommel, Henry Melson

[生]1920.9.27. デラウェア,ウィルミントン
[没]1992.1.17. マサチューセッツ,ボストン
アメリカ合衆国の海洋学者,気象学者。1950年代,大西洋の深層循環モデルを提唱したことで世界的に知られる。1942年にエール大学を卒業,1944年まで同大学で数学,天文学の講師を務めた。1944~59年マサチューセッツ州のウッズホール海洋研究所の研究員として勤務,1959年マサチューセッツ工科大学の海洋学教授に就任。ハーバード大学で教鞭をとった 1960~63年を除きマサチューセッツ工科大学にとどまった。バミューダ諸島のパニュリラス観測所(1954設立)をはじめ,いくつかの海流観測所を設置した。ストンメルは,メキシコ湾流が生じるのは地球の自転によるものであると考え,北上して冷えて沈降した海流が,南へ移動する深層海流になるという理論を立てた。さらに,表層水が北極海で沈降して南へ向かう深層海流を生み出す一方,南極圏へ流れ込んだ水が,南北アメリカ大陸東岸の沖合を北上していくとする深層循環モデルを唱えた。1962年,アメリカ科学アカデミー会員に選ばれる。1989年,ナショナル・メダル・オブ・サイエンスを受賞。(→海流

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