翻訳|upwelling
下層の海水が湧き上がってくる現象。大別して次の5種がある。
(1)沿岸湧昇 北半球では、風が海岸を左に見て吹くと、吹送流によって表層の海水は風下に向かって右、つまり沖合に運ばれる。そのあとを補充する形で下層の海水が湧き上がる。南半球では、風向きと吹送流の向きの関係が北半球とは逆になるので、風が海岸を右に見て吹くときに湧昇が起きる。
(2)赤道湧昇 赤道とその南北近傍では東寄りの貿易風が吹く。東風による吹送流によって表層海水は赤道の北側では北向きに、赤道の南側では南向きに運ばれる。その結果、赤道とその近傍での海水不足を補う形で下層の海水が湧き上がる。沿岸湧昇も赤道湧昇も上向きの速さは、風の強さなどによるが、いちおうの目安は1日に0.1~1メートルである。
(3)海岸や赤道から遠い場所での吹送流による湧昇 洋上の風の強さは場所によって異なるので、吹送流によって運ばれる表層海水量も場所によって変わる。その結果、ある場所には表層海水が集積(収束)し、別の場所では周りに散ってゆく(発散する)。発散域では下層の海水が湧き上がる。その速さは、風の強さと緯度によるが、沿岸湧昇や赤道湧昇よりも遅くて、1日に1センチメートルくらいである。
(4)深層の湧昇 前記(1)~(3)の3種は数十メートルないし200~300メートルの深さからの湧昇であるが、深層の湧昇は、だいたい1000メートルよりも深いところから起きる。表層海水が海底近くまで沈み込む所は、北大西洋北部と南極海(とくにウェッデル海)などに限られている。沈降した海水は世界中の深海に広がりながら上向きにも動いて、数百年、数千年ののちに再び表層に浮かび上がる。上向きの速さの目安は、沈降する海水量を全海洋の面積で割れば得られる。1日に1センチメートルくらいである。
(5)小規模の局所湧昇 海底が突起して山となっていると湧昇が起きることがある。小さな海山をつくり、人工湧昇を起こして生物生産性を高めることは試みられている。また、島の風下側でも湧昇が起きることがある。
[高野健三]
海の深い所から表層に上昇してくる流れ。湧昇流とも上昇流ともいう。
海水の運動は海流としてよく知られるように,水平方向に卓越していて,鉛直方向の流れはきわめて微弱(たかだか1日に1m程度)であり,またその海域も限られている。図1は全世界の海洋における湧昇域(濃色部)を示したものであるが,全体の海洋表面積に占める割合はきわめて小さく,おもに沿岸と赤道域にしかないことが注目される。しかし,この湧昇海域において生産される漁獲量は世界のほぼ半分を占めており,人間の生活にはきわめて重要なかかわり合いをもっている。とくに南米ペルー沖の湧昇域は,エルニーニョが発生する際には気候にも影響を与えるので注目を集めることが多い。湧昇域が好漁場となることが多いのは,下層から常に栄養塩を含んだ水が補給されるため生物生産量が増すことによる。また下層の冷たい水が表層に上がるのであるから,湧昇域は周囲に比べ低温の海水で占められる。ペルー沿岸やカリフォルニア沿岸の夏の気温があまり高くならないのは湧昇の影響が大きい。
沿岸において湧昇が生じる機構を模式的に示したのが図2である。図2-aのように,いま北アメリカ西岸に沿って北風が吹いたとする(このとき海は簡単のため上に高温水,下に低温水の2層のみとしてある)。風が数週間吹き続けるとコリオリの力が働いて,海の表層の海水は全体として風向の直角右向きに運ばれる(エクマンの吹送流理論による。南半球なら風向の直角左向き)から,その水を補給するために下層の水が上がってくる(図2-b)。実際には北から南に流れる海流がこれに重なるので,沿岸における海水の動きは図2-cのように表されることになる。以上は北アメリカ西岸を例にとって説明したが,もし日本の東岸ならば南風が,ペルー沖ならやはり南風が,オーストラリア東岸ならば北風が,それぞれ吹くことが,沿岸湧昇を発達させるために必要である。
赤道において湧昇が生じるのも,上記の沿岸湧昇と似た機構による。赤道域では一般に東風が卓越しているため,赤道の北側では北向きに,南側では南向きに,それぞれ海水が輸送される(図3参照)。それを補うために下層から水が昇ってくるわけである。
執筆者:宮田 元靖
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 (財)日本水路協会 海洋情報研究センター海の事典について 情報
…水深約4000m以浅の海嶺上では,石灰質の殻を分泌するプランクトンの遺骸より成る石灰質軟泥が発達するが,深い海盆部では石灰質が溶解するため褐色粘土やケイ質軟泥が卓越する。同じようにケイ質軟泥とはいえ,南緯5゜を中心に分布するものは赤道海流と反流の間で生じる湧昇流に基づくプランクトン大発生帯によるもので,放散虫の殻を主成分とする。南極収束線もプランクトン大発生地帯(南緯60゜を中心)でケイ質軟泥が発達するが,こちらはケイ藻の殻を多量に含む。…
…∂w/∂zは鉛直方向の流速こう配であるから,水平発散は上昇流や下降流と密接に結びついている。例えば,海面のある場所で発散があれば,そこでは下のほうから海水が上昇していることを示している(これを湧昇という)。逆にある場所に海水が集まって収束があれば,そこでは海水の沈降が起こる。…
※「湧昇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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