セーの法則(読み)せーのほうそく(英語表記)Say's law

翻訳|Say's law

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セーの法則」の意味・わかりやすい解説

セーの法則
せーのほうそく
Say's law

供給はそれ自ら需要をつくりだす、という命題に要約されている経済学上の見解で、販路説ともいわれる。古典派経済学が共通に前提とした見解であるが、最初の提唱者であるフランスの経済学者J・B・セーの名前からこのようによばれている。財の生産は、それに参加した生産要素(土地、労働、資本)の提供者に、生産された財の価値に等しい所得をもたらし、その所得はすべて生産物に対する需要となるので、財を供給することはそれに対する需要を生み出すことになる。したがって、経済全体をとってみれば、生産の不つり合いによる部分的過剰生産はありえても、一般的過剰生産はありえないというのがこの法則の考え方である。

 セーの法則に対しては、K・マルクスとJ・M・ケインズ批判がよく知られている。

 セーの法則では、貨幣が単なる交換の媒介手段とみなされているために、資本主義的貨幣経済と物々交換とが同一視されている。物々交換では、生産物の「売り」は同時に「買い」となるが、資本主義経済では、両者が統一的に実現されるとは限らず、分離の可能性と必然性が存在する。ことに、「売り」によって取得された貨幣は貯蔵手段ともなるので、この分離が大規模に生ずる可能性、すなわち恐慌の可能性が存在する、というのがマルクスの批判である。

 ケインズの批判は、貯蓄投資は一致しないという点にある。セーの法則では、所得のうち消費されなかった貯蓄部分はかならず投資に回されると考えることになるが、両者はまったく別々の人の決意によって行われるものであって、一致する保証はなく、その不一致経済変動をもたらすというものである。

[佐々木秀太]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セーの法則」の意味・わかりやすい解説

セーの法則
セーのほうそく
Say's law

貨幣は単なる交換手段であり,生産物の販売は同時に生産物の購買であるから,生産物の総供給と総需要は恒等的に等しいという命題。主唱者である J.-B.セーが「販路法則」とも呼んだものである。 D.リカードはこのセーの法則に基づいて一般的過剰生産は存在しないことを主張し,一般的過剰生産の可能性を主張した T.R.マルサスと対立した。恐慌の必然性を主張した K.マルクスもセーの法則を批判した。 J.M.ケインズ以後はセーの法則は生産物の総需要と総供給が価格の調整により均等化されることを意味すると解釈されている。ケインズはこの法則を「供給はそれみずからの需要を生み出す」と表現し,セーの法則に明示的あるいは暗黙的に基づくリカードや A.マーシャルの経済学を「古典派」経済学と呼んで,実質賃金率の下方硬直性により不完全雇用が生じる可能性を指摘したケインズの経済学と区別した。現代的な意味でのセーの法則は,このような価格調整に基づく経済学と数量調整に基づく経済学を区分するための基準の役割を果している。

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