日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゼンガー事件」の意味・わかりやすい解説
ゼンガー事件
ぜんがーじけん
植民地時代のアメリカで起こった名誉毀損(きそん)事件。1734年、ニューヨークの新聞発行者ゼンガーJohn Peter Zenger(1697―1746)が『ニューヨーク・ウィークリー・ジャーナル』紙上で総督府の政治批判を行ったため、治安妨害を理由に逮捕された。ドイツ生まれのゼンガーは、1710年にアメリカに渡り、『ニューヨーク・ガゼット』紙が総督の御用紙であることに対抗、アレグザンダーJames Alexander(1691―1756)らの支持を得て33年前述の『ジャーナル』を発刊、コズビーWilliam Cosby(1690―1736)総督を攻撃した。裁判では、事実を報道する権利を主張したハミルトンAndrew Hamilton(1676―1741)の弁護により、ゼンガーの無罪が認められた。名誉毀損における刑事裁判で、報道内容が事実に基づくことを立証することにより、初めて無罪を確定したこの事件は、アメリカにおける言論出版の自由の歴史上もっとも重要な事件とされている。
[鈴木ケイ]
『磯部佑一郎著『アメリカ新聞物語』(1971・ジャパンタイムズ)』