日本大百科全書(ニッポニカ) 「ソニック・ユース」の意味・わかりやすい解説
ソニック・ユース
そにっくゆーす
Sonic Youth
1980年代アメリカのアンダーグラウンド・ロック・シーンを代表すると同時に、1990年代以降の実験的ロック・ミュージックの展開に重要な役割を果たしたグループ。ニューヨークの実験音楽家グレン・ブランカGlenn Branca(1948―2018)のギター・オーケストラで知り合ったサーストン・ムーアThurston Moore(1958― 、ギター、ボーカル)とリー・レナルドLee Ranaldo(1956― 、ギター、ボーカル)は、ムーアのガールフレンド、キム・ゴードンKim Gordon(1953― 、ベース、ギター、ボーカル)と1978年ころから活動を開始する。ニューヨーク・パンクの活力と実験的な音楽性の統合を目ざし、ミニ・アルバム『ソニック・ユース』(1982)、ファースト・アルバム『コンフュージョン・イズ・セックス』(1983)などをリリース。1984年にはスティーブ・シェリーSteve Shelley(1962― 、ドラムス)が加入し、初期の名作『バッド・ムーン・ライジング』(1985)の発表により、その名を広く知られるようになる。
彼らの音楽には、アメリカ文化の活力を示す多様な要素――パンク、フリー・ジャズ、実験音楽といった音楽ばかりではなく、ポップ・アート、現代美術、パフォーミング・アートに至るまで――をロックン・ロールというフォームの中に融解させ、アメリカの裏面を一筆で描き出すようなスケール感があった。架空の国家をテーマにした『デイ・ドリーム・ネイション』(1988)はその顕著な例で、批評家に絶賛された。このアルバムを最後に彼らはメジャー・レーベルのゲフィンと契約、『グー』(1990)を世界リリースし、1990年代の新たなロック・ミュージックの姿を宣言する。アンダーグラウンド・シーンの活力をメジャー・レーベルに持ち込んだ彼らは、後のニルバーナを皮切りに勃興するグランジの先駆けをなした。また1990年代の彼らは、コンテンポラリー・アートのシーンや現代音楽の作曲家とも積極的に交流をもち、その活動はポップ・ミュージックとハイ・カルチャーとの境界を揺さぶるものとなっている。
[増田 聡]
『アレック・フォージ著、中原尚哉訳『ソニック・ユース・ストーリー』(1996・リットー・ミュージック)』