改訂新版 世界大百科事典 「その妹」の意味・わかりやすい解説
その妹 (そのいもうと)
武者小路実篤の戯曲,5幕。1915年(大正4)《白樺》に発表。17年,山本有三の演出で舞台協会により初演。戦場で失明して画家から文学者に転身しようともがく青年を過酷な現実がはばむ,という設定であり,献身的な妹は体を売るようにして資産家の放蕩息子にとついでゆく。友人たちの協力も兄妹を助けることはできない。現実にたたかれてもなお理想と誠意を求めつづける真摯(しんし)な青年たちを,当時の武者小路は〈無能力者〉ならぬ〈未能力者〉と命名したが,これはその代表作であり,〈未能力者〉たちの無垢(むく)な挫折をそれにふさわしい芸術的な香気につつんで表現した。自然主義文学の克服を模索していた同世代の作家たちにひろく歓迎され,彼の出世作になった。
執筆者:大津山 国夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報