その妹(読み)そのいもうと

改訂新版 世界大百科事典 「その妹」の意味・わかりやすい解説

その妹 (そのいもうと)

武者小路実篤戯曲,5幕。1915年(大正4)《白樺》に発表。17年,山本有三演出舞台協会により初演戦場で失明して画家から文学者に転身しようともがく青年を過酷な現実がはばむ,という設定であり,献身的な妹は体を売るようにして資産家の放蕩息子にとついでゆく。友人たちの協力も兄妹を助けることはできない。現実にたたかれてもなお理想と誠意を求めつづける真摯(しんし)な青年たちを,当時の武者小路は〈無能力者〉ならぬ〈未能力者〉と命名したが,これはその代表作であり,〈未能力者〉たちの無垢(むく)な挫折をそれにふさわしい芸術的な香気につつんで表現した。自然主義文学克服を模索していた同世代の作家たちにひろく歓迎され,彼の出世作になった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「その妹」の意味・わかりやすい解説

その妹
そのいもうと

武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)の戯曲。五幕。『白樺(しらかば)』1915年(大正4)3月号に発表。17年3月舞台協会が赤坂のローヤル館で山本有三の演出、加藤精一らの出演により初演。将来を嘱望されていた画家野村広次は戦争で失明したため、妹静子の助けを得て小説家として生きていこうとする。両親を亡くした2人は叔父の家に食客でいるが、叔父の上役の息子が美人の静子を見そめ、結婚を申し出る。嫌な結婚をすることはないと2人は先輩の西島助力で自活しようとするが追い詰められ、ついに静子は結婚に踏み切る。兄を思い妹を思う兄妹の愛と、若い芸術家の悩みをぐいぐいと描いた武者小路の戯曲の代表作で、発表当時は作中の反戦思想も話題をよんだ。

大笹吉雄

『『その妹』(岩波文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「その妹」の意味・わかりやすい解説

その妹
そのいもうと

武者小路実篤の戯曲。5幕。 1915年発表。 17年に舞台協会が初演。戦争のため盲目となった画家野村広次の苦悩と絶望,そしてその兄に犠牲的行為で奉仕する妹の献身ぶりを対比させて,作者本来の調和的共同体理想像を描き上げている。

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