ソーシャルアドミニストレーション(英語表記)social administration

改訂新版 世界大百科事典 の解説

ソーシャル・アドミニストレーション
social administration

ソーシャル・アドミニストレーションはイギリスの大学でソーシャル・サービスを研究,教育する学部名となっており,一つの学問分野と認められている。ただ,それが固有の知識体系を持った学問領域disciplineであるか否かについては,議論が分かれている。現代国家の行政研究の領域が,福祉国家体制の拡充とともに,大きくパブリック・アドミニストレーション(行政学)とソーシャル・アドミニストレーション(以下SA)に分化されたと考えることができる。SAの研究対象となるソーシャル・サービスは日本の社会福祉よりかなり広範囲で,教育,住宅,社会保険(付加給付としての公的扶助を含む),国営保健サービス,個別ソーシャル・サービス(児童老人,障害者福祉の総称),犯罪者更生などを含む。

 イギリスで最初のSAコースは1912年にインドの財閥タタの寄付金をもとにロンドン政治経済大学に設置された。第2次大戦後福祉国家が成立するまでは,SAの主要課題は実践レベルの個別的処遇の専門化,したがって専門職化であった。しかし1950年代には,実践からさかのぼってその行政さらには政策視野に入れ,それらのあり方を問うところに関心が移行し,福祉の社会化が主要課題となる。施設収容ケアに代わってコミュニティ・ケアが志向され,その流れはやがて障害者,高齢者のノーマリゼーションないしインテグレーション(正常化,統合化と訳される。高齢者,障害児,障害者について,従来とかく家庭生活,教育,雇用など通常の社会生活の場から引き離して福祉を図ってきたのを改めて,正常な社会生活に統合したなかで福祉が保障さるべきだとする理念)につらなってゆく。個別ソーシャル・サービス(PSS)固有の領域の拡張に代わって,むしろ雇用や教育,保健という普遍的な領域の充実のなかにPSSが浸透してゆく過程への転換であった。

 同じことは貧困施策についても当てはまる。選別的な公的扶助から普遍的な制度,社会保険や所得税制との一体化が考えられる。国民扶助が国民年金の付加給付へ装いを変え(1966),第2子からであった家族手当が所得税の扶養児童控除と一体化されて,すべての児童に対する児童給付となった(1978),などがその例である。住宅政策ではそれまで公的援助公営住宅かさもなければ持家購入者の住宅ローン利子の所得税制上の所得控除に限られ,民営借家居住者はなんの給付も受けられなかったのを改めて住宅手当制度を導入したのも,同方向の改革である。

 これらはいずれもSAのターゲットの家族に公正かつ確実に援助を及ぼそうとするもので,福祉国家体制におけるSAは社会的公正と社会的効率(経済的効率とは異なり援助が確実に到達するか否かがメルクマールである)を高めることにその使命を求めてきたといえる。ひるがえって日本では,国民皆保険が制度を継ぎ足して1960年代初めにやっと成立し,個別ソーシャル・サービスも障害者と高齢者が生活保護から分離する形で拡充されたことに象徴されるように,これまでのところ総合的に社会的公正と社会的効率を考える姿勢を欠いてきた。経済の低成長が定着した今日,改めて社会福祉制度の質が問われるが,その場合イギリスのSAの成果に学ぶべきところは大きい。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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