公的賃貸住宅のうち、自治体が運営する低所得者ら向けの住宅。2021年3月時点で全国に約213万戸。入居に収入要件があり、公募が原則。国は18年と20年、単身高齢者の増加を見据え、セーフティーネットとしての役割を重視し、保証人規定を入居の要件にしないよう自治体に要請した。入居希望者が保証人を見つけられない場合、自分でお金を払い保証会社など法人に保証人になってもらう代替策を認める自治体もある。公的賃貸住宅には他に、ファミリー世帯向けの都市再生機構(UR)の住宅などがある。
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公営住宅法(昭和26年法律第193号)に基づいて地方公共団体が整備し、住宅に困窮する低額所得者に賃貸または転貸される住宅。
法制定から1996年(平成8)までの公営住宅制度では、公営住宅家賃は建設費の償却額に、修繕費などを加えた額を限度として地方公共団体が定める方式(法定限度額家賃方式)が採用されていた。また第1種および第2種の種別区分を設けて、第2種をより低額所得者向けの住宅として、国庫補助率を第1種住宅よりも高くして家賃の限度額を引き下げていた。
公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者の居住の安定を確保するためのセーフティネットとして政策的に位置づけられているため、入居資格に収入基準が設けられている。法制定当初の入居収入基準は全世帯の約80%が対象となるほど広範なものであったが、その後国民所得水準の向上や住宅市場の整備に伴って、徐々に対象となる世帯が限定されていった。1960年代前半には収入分位(全世帯を収入の低い順に並べたとき、各世帯の収入順位が下から何%に位置しているかを示す数値)の約60%、1960年代後半には40%、1970年代なかば以降は約33%を入居の対象とした。
1996年の公営住宅法改正により、家賃は入居者の収入と当該公営住宅の立地条件や規模、経過年数などを考慮して決定する仕組み(応能応益家賃方式)に変更され、家賃水準は近傍同種の住宅の家賃以下であることとされた。この制度改正に伴い、入居収入基準は収入分位の約25%、入居収入基準額は月収20万円とされ、入居の対象をいっそう所得の低い階層に限定した。またバリアフリー住宅が市場において不足している等の理由から、高齢者や障害者世帯については、地方公共団体の裁量によって、入居収入基準を収入分位の約40%(月収26万8000円)にまで引き上げることを可能とした。ところが、その後月収20万円以下に該当する階層が増加し、応募倍率が上昇したため、2009年(平成21)に公営住宅法施行令の一部が改正され、入居収入基準額を一般世帯は月収15万8000円以下に、裁量世帯は月収21万4000円まで引き上げることができるようになった。
近年では、住宅困窮は、低額所得であるということに限定されない状況が生まれており、単身高齢者の福祉ニーズや子育て世帯や多子世帯のニーズ、DV(ドメスティック・バイオレンスdomestic violence)被害者の緊急・一時居住ニーズなど、増加・多様化するニーズへの対応が課題である。他方で、公営住宅を住宅のセーフティネットとしての機能に特化させることが、公営住宅に社会的弱者を集中させ、自治機能や地域コミュニティの活力を低下させているという問題も指摘されている。
公営住宅の全住宅ストックに対する比率は、日本では4.2%(2008)である。都市再生機構住宅や公社住宅などを含めた公的賃貸住宅の割合も6.1%であり、イギリスやドイツ、フランスなどの先進ヨーロッパ諸国と比較するとその割合は低い。現在では、住宅政策が市場重視と、既存住宅ストックの有効活用を基本方針としていることから、公営住宅の新規建設は老朽化したストックの建て替えによるものに事実上限定されており、全体として公営住宅戸数は微減の傾向にある。
[堀田祐三子]
『住本靖著『新公営住宅法逐条解説』(1997・商事法務研究会)』▽『国土交通省住宅局監修『地域住宅特別措置法・改正公営住宅法等の解説』(2006・ぎょうせい)』
公営住宅法に基づき,建設,賃貸,管理される住宅およびその付帯施設をいう。日本の住宅政策は,1951年公布の公営住宅法,81年公布の住宅・都市整備公団法(前身は日本住宅公団法),1950年公布の住宅金融公庫法を3本柱としており,前2者は公的機関が住宅を直接建設,供給するのに対し,後者は建設資金の融資によって民間自力建設を間接的に援助する。高所得層には公庫による持家建設,中堅所得層には公団(地方都市では住宅供給公社)分譲および賃貸住宅,低所得層には公営住宅という階層対応を想定している。公営住宅は〈国及び地方公共団体が協力して,健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を建設し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸する〉(公営住宅法1条)もので,国の補助を受けて都道府県および市町村が直接建設,管理する。第1種公営住宅と第2種公営住宅の区分があり,国の補助額は前者が建設費の1/2,後者は2/3である。入居資格は1982年度現在,第1種住宅で基準月額14万1000円(基準額とは,所得税法に準じて算出した〈収入〉から,さらに政令で定める扶養親族必要経費を控除したもの。したがって,夫婦と子ども2人の標準世帯での年間粗収入は367万5000円),第2種住宅で8万7000円(同295万円)を上限としている。第1種住宅ではおおむね国民所得階級の下位4割,第2種住宅では同2割の低所得層に相当する。入居後この収入限度を超えると割増賃料(家賃)が課されるほか,収入が国民所得階級の上位2割程度に達すると,明渡し義務が生ずる。
公営住宅は,その前身である終戦直後の応急簡易住宅,国庫補助庶民賃貸住宅を加えると,1981年度現在で231万戸建設され,そのうち用途廃止や除却を差し引く約185万戸が供用されている。全国全住宅戸数の5%強に相当する。建設基準は毎年の政令で定められる。標準工事費を算出する際の標準床面積は第1種住宅71.0m2,同2種67.7m2(1982年度)である。平均で3DK(3寝室と食事のできる台所)が確保できる規模となった。技術面では公団住宅とともに国民に団地生活やDK(ダイニングキッチン),中層や高層の集合住宅形式などの新しい住様式を普及・浸透させたほか,〈特定目的公営住宅〉では身体障害者向け住宅を開発してきた面なども評価される。このように,公営住宅は社会的弱者に対する住宅施策として大きな役割を果たしてきたが,反面,持家政策偏重のなかでその供給戸数の少なさに加えて,過去に建設された公営住宅の圧倒的多数が2K(2寝室と台所)の狭い面積のもののため,その居住水準は全住宅のなかでも最も低い,等の問題点がある。この対策として,近年では建替事業や住戸改善事業などの比重が高まっているほか,地域の伝統的な住宅様式を採り入れたデザイン性豊かな低層集合住宅形式など,新たな脱皮も試みられている。また,用地費の高騰などから新築住宅家賃は上昇しており,ほとんどの自治体では建設費の国庫補助のほかに,さらに家賃を割り引く〈政策家賃〉を実施している。しかし,それでも第1種公営住宅の全国平均家賃は3万2000円(1981年度)となり,もはや〈低廉な家賃〉とはいえない状況である。それにもかかわらず東京都など大都市での応募倍率は平均15倍にも達しており,低家賃公共賃貸住宅施策の充実が求められている。
→住宅政策
執筆者:玉置 伸俉
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…第1は公共セクター中心型である。イギリスは,保守党は持家政策,労働党は公営住宅政策にそれぞれ力を入れてきた。持家政策のほうは他の資本主義国に比しとくに目立った点はないが,注目されるのは公共住宅政策である。…
※「公営住宅」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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