改訂新版 世界大百科事典 「タチヨタカ」の意味・わかりやすい解説
タチヨタカ (立夜鷹)
potoo
ヨタカ目タチヨタカ科Nyctibiidaeの鳥の総称。この科は1属5種よりなり,メキシコからブラジル,パラグアイまでの熱帯アメリカと西インド諸島に分布する。全長40~50cm。旧世界のガマグチヨタカに似た鳥で,羽色も褐色ないし灰色を主とした隠ぺい色である。翼と尾は長く,脚は非常に短い。他のヨタカ目の鳥と同様に,くちばしは小さいが,口は非常に大きい。比較的開けた森林,灌木林,林縁,農園などに留鳥としてすむ。習性は完全に夜行性で,また繁殖期以外はつねに単独で生活している。いつも木の枝に止まっていて,地上におりることはほとんどなく,とくに昼間は直立姿勢で止まったまま休息している。この日中のねぐらはだいたい決まっているらしく,数ヵ月もの間毎日同じ場所で休んでいたことが観察されている。夜になると見通しのきく枝先に出て,飛んでくる昆虫を待ち受け,獲物を見つけると飛び出して捕食する。食物は鱗翅目,直翅目,鞘翅(しようし)目,半翅目などの昆虫類である。鳴声は澄んだ悲しげな声で,7~8声続けて鳴く。月夜にはとくによく活動する。巣は大枝や幹のこぶになったところのくぼみで,この中に1腹1個の白色の卵をじかに産む。この鳥は,直立姿勢の形で抱卵する。休むときや獲物を待ち伏せるときも直立姿勢で,このためタチヨタカの名があるが,この姿勢は完全な擬態となっている。抱卵と育雛(いくすう)は雌雄交替でするが,観察の機会が少ないため,彼らの生活史はよくわかっていない。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報