ダブリン市民(読み)だぶりんしみん(英語表記)Dubliners

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダブリン市民」の意味・わかりやすい解説

ダブリン市民
だぶりんしみん
Dubliners

アイルランドの小説家ジェームズ・ジョイスの処女短編集。1914年刊。15の作品からなる。「麻痺(まひ)の中心」ダブリンの「倫理史」の1章を試みたもの。英王室批判を含んだ一節があったために、削除要求や出版拒否の憂き目を見、友人たちの尽力でようやく出版された。フロベールから学んだ精緻(せいち)で結晶度の高い、しかも単色の抑制された文体で書かれており、さまざまな登場人物たちのダブリン脱出の夢とその挫折(ざせつ)が、重要な主題の一つになっている。どの短編にも、ものの本質を一挙にひらめき出させる、いわゆる「顕現(エピファニー)」epiphanyの手法が用いられており、細部描写に徹した写実主義と、鮮やかなイメージの繰り返しとパターンの様式化を用いた象徴主義の、みごとな結び付きがみられる。

[出淵 博]

『高松雄一訳『ダブリン市民』(『新集 世界の文学30』所収・1972・中央公論社、のち福武文庫)』『戸田基訳『ダブリン市民』(『筑摩世界文学大系67』所収・1976・筑摩書房)』『安藤一郎訳『ダブリン市民』(新潮文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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