改訂新版 世界大百科事典 「チェリーニ」の意味・わかりやすい解説
チェリーニ
Benvenuto Cellini
生没年:1500-71
イタリア・ルネサンス期の彫刻家,金工家。フィレンツェに生まれ,金工家の工房で修業したのち,1519年ローマに移り,ここで約20年間彫刻と金工品の制作に従事した。この時期の作品として貨幣,金工および印章の作品がある。ローマ在住中,彼はライバルの金工師との決闘や公金横領の罪で投獄された。しかし,フランソア1世に救われ,王に招かれて40年フランスに渡り,43-44年にフォンテンブロー宮殿の内部装飾のため,《ニンフ像》,神話をモティーフにした〈銀製燭台〉,フランソア1世のための黄金の〈塩壺〉(ウィーン美術史美術館蔵)などを制作した。この〈塩壺〉は金工家としてのチェリーニの代表作の一つである。形態は楕円形で,海神ネプトゥヌスと大地の女神テルスが海馬とドルフィンの間に横たわり,コショウを入れる凱旋門と塩入れの船からなる。台座の浮彫人物像のポーズは,メディチ家廟の墓碑に横たわるミケランジェロの人物像からとられている。チェリーニの洗練されたイタリア・ルネサンス様式による作品は16世紀後期のフランスの装飾美術に大きな影響を与えた。45年フィレンツェに戻り,ここでメディチ家のコジモ1世の支援をうけて,バルジェロ美術館の壮大なブロンズ製の《コジモ1世像》や大理石の《ナルキッソス像》,ロッジア・デイ・ランツィにあるブロンズ製の《ペルセウス像》などを制作した。とくに《ペルセウス像》(1545-54)は台座部分の装飾も彼自身で作っている。また,酒,決闘,公金横領,投獄,逃亡など波乱に富んだ生涯や,クレメンス7世,フランソア1世,コジモ1世時代の世相,芸術家のエピソードを交えながら自分の作品について語った《自叙伝》(初版1728,ナポリ)は,美術史上の貴重な資料たるにとどまらず,自伝文学としてもすぐれた作品と評価されている。なお,ベルリオーズはこの《自叙伝》をもとに,オペラ《ベンベヌート・チェリーニ》(1838初演)を作曲している。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報