チター(読み)ちたー(英語表記)zither

翻訳|zither

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チター」の意味・わかりやすい解説

チター
ちたー
zither

広義には弦鳴楽器の分類上の呼称であり、狭義には南ドイツやオーストリアの民俗楽器の一種をさす。

 クルト・ザックスの楽器分類法によると、チターとは、弦を張るための張出し部をもたず、楽器胴体の両端の間に胴面とほぼ平行に弦を張るタイプの弦鳴楽器の一般的呼称である。この点で、胴面を越えたり離れたりするように弦が張られるリュートリラハープなどと区別される。また共鳴体は、胴が兼ねることも、別に取り付けられることもあるが、後者の場合、共鳴体を取り外しても発音機構が損なわれないことがチターの特徴である。形態のうえからは、棒形(楽棒や楽弓などで、普通、別に共鳴体を必要とする)、筒形(竹筒などに弦を取り付けたり、表皮から弦を切り出したりする)、筏(いかだ)形(筒形胴を結び合わせる)、平板形(そのうちの胴が共鳴箱を兼ねるタイプに、狭義のチター、ダルシマー、ピアノなどが含まれる)などに分けられる。発音法は、指やプレクトラム(義甲)による撥弦(はつげん)と桴(ばち)やハンマーによる打弦が多いが、弓による擦弦もまれではない。

 狭義のチターは、箱形共鳴胴に5本の旋律弦(金属製で、フレット付きの指板の上に張られる)と30本以上の伴奏弦(羊腸製もしくはナイロン製)を張ったもの。奏者は楽器を膝(ひざ)や台の上に水平に置き、左手指でフレットを押さえ、右手親指につけたプレクトラムで旋律を奏しつつ、残りの右手指で開放弦のなかから和音となるように数本を選んではじく。旋律弦の調弦法にはミュンヘン式(A4―A4―D4―G3―C3)やウィーン式(A4―D4―G4―G3―C3)などがあり、伴奏弦は四度もしくは五度間隔で調弦する場合が多い。

 なお、狭義のチターが用いられている芸術音楽にはヨハンシュトラウスワルツ王)のワルツ『ウィーンの森の物語』(1868)があり、日本では、アントン・カラスのチター独奏による『第三の男』(1950)の映画音楽によって広く知られるようになった。

[山田陽一]

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