改訂新版 世界大百科事典 「ツノゼミ」の意味・わかりやすい解説
ツノゼミ (角蟬)
treehopper
胸部に角のような突起をもったセミという意味だが,体は小さく,20mmを超すものはいない。半翅目同翅亜目ツノゼミ科Membracidaeに属する昆虫の総称,またはそのうちの1種を指す。ヨコバイ類に近縁のグループで,基本的な体の構造は互いによく似ているが,この類が特異なのは前胸背部が奇妙な形に多様な変化を遂げていることである。種によって,前方,側方,後方などさまざまな方向に突出する角を有するものが多いが,前胸背が隆起する,後方へ伸長する,あるいは縦の薄い葉片となる仲間もある。世界から約2000種が知られるが,熱帯に種類が多く,日本には少なく,約20種を数えるにすぎない。形態的にも日本産種には著しく変わったものは見られず,側方に突出する1対の角をもつか,前胸背が後方に伸長するくらいである。ツノゼミOrthobelus flavipesは体長が6~7mmで,山地のアザミやヨモギ類上で見られる。トビイロツノゼミMachaerotypus sibiricusは体長が5~6mm,各地にもっともふつうな種で多種な樹木上に生息する。最近の研究によると,ツノゼミ類に社会性の発達段階が見られることが判明した。現在までに,成虫とその幼虫に社会的関係が見られる種が約50種知られている。つまり,産卵後の雌が自分の幼虫たちに親としての活動をするのである。ある種の雌は樹木の枝などに,産卵管によって裂け目をつくり,卵塊として産卵する。その後も産卵場所に残った雌は,孵化(ふか)直前になると,別の場所にまた裂け目をつくり,孵化した幼虫はその裂け目より吸汁摂食する。それからも雌は幼虫たちが成育するまでその近くにつきそって,捕食者などが近づくと攻撃的な羽ばたきをして,敵を撃退し幼虫たちを守る。またツノゼミにはアリとの間に,アリとアブラムシとの間と同様な共生的関係を有する種がある。アリはツノゼミから甘露をもらうことにより,ツノゼミを保護する。
執筆者:立川 周二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報