甘露(読み)カンロ

デジタル大辞泉 「甘露」の意味・読み・例文・類語

かん‐ろ【甘露】

[名]
中国古来の伝説で、天子仁政を施すと、天が感じて降らすという甘い露。
《〈梵〉amṛtaの訳。不死天酒の意》天上の神々の飲む、忉利天とうりてんにある甘い霊液。不死を得るという。転じて、仏の教え、仏の悟りにたとえる。
煎茶の上等なもの。
夏に、カエデエノキカシなどの樹葉からしたたり落ちる甘い液汁。その木につくアブラムシから分泌されたもの。
甘露酒」「甘露水」の略。
[名・形動]非常においしいこと。甘くて美味なこと。また、そのさま。「ああ、甘露甘露
[類語]露霜朝露雨露あめつゆ雨露うろ夜露白露しらつゆ白露はくろ下露上露結露甘い甘ったるい甘口あまくち甘美かんび甘み甘味甘辛甘辛い甘酸っぱいスイート

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精選版 日本国語大辞典 「甘露」の意味・読み・例文・類語

かん‐ろ【甘露】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 天から与えられる甘い不老不死の霊薬。中国古来の伝説では、天子が仁政を行なうめでたい前兆として天から降るといわれている。
    1. [初出の実例]「則ち風に随ひて松林と葦原とに飄(ひひ)る。時の人、曰はく、『甘露(カムロ)なり』といふ」(出典:日本書紀(720)天武七年一〇月(北野本訓))
    2. [その他の文献]〔論衡‐講瑞〕
  3. ( [梵語] amṛta の訳語。阿蜜㗚多と音訳。不死、神酒などとも訳す ) インドで天の神々が不死を得るための飲料をいう。これを飲むと苦悩を去り、長寿になり、死者をもよみがえらせるという。転じて、仏の教え、仏の悟りなどにたとえる。
    1. [初出の実例]「曼陀枳尼の殊勝の池に沐浴し、四種の甘露を嘗(な)め」(出典:栄花物語(1028‐92頃)もとのしづく)
    2. 「我、甘露(かんろ)の法門を開て彼(かの)阿羅邏仙を先づ度せむ」(出典:今昔物語集(1120頃か)一)
  4. ( 形動 ) おいしいこと。また、そのさま。美味を表わす語。
    1. [初出の実例]「於甘露(カンロ)之乳水醍醐之上味、難料棟(れうけん)候」(出典:新撰類聚往来(1492‐1521頃)上)
  5. 瓜の異称。
    1. [初出の実例]「喫梵天甘露」(出典:蔭凉軒日録‐文明一九年(1487)六月二八日)
  6. 夏にカエデ、エノキ、カシなどの樹葉からしたたり落ちる甘味の液汁。その木につく虫、「ありまき」の体内から分泌されたもの。
  7. 煎茶(せんちゃ)の上等のもの。
  8. かんろしゅ(甘露酒)」の略。
  9. かんろすい(甘露水)」の略。

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改訂新版 世界大百科事典 「甘露」の意味・わかりやすい解説

甘露 (かんろ)

古代のインド,中国の伝承の霊薬。インドでは,もとサンスクリットのamṛtaで〈死なない〉ことを意味することばであるが,インド最古の古典《リグ・ベーダ》では転じて不死なること,神を意味し,そこから神々の食物や飲料をも意味するようになった。したがって,本来どのようなものであったかは明らかでないが,古代インドの伝承では,しばしばソーマ酒(ソーマなる植物より造った飲料,酒で神に供えられる)と同一視され,みつのように甘く,万病の薬とされている。漢文仏典では甘露と訳され,忉利天(とうりてん)より降る雨,甘い液で人の苦痛を治め,長生きさせる力をもつものと解された。また〈不死なるもの〉の意味から永遠の生命をもつ仏の教え,あるいは仏の教えによる悟りの境界を示すものともされた。甘露が醍醐(だいご)とも訳されるのはこの意味からである。なお,密教経典では阿弥陀仏(あみだぶつ)の阿弥陀はamṛtaの俗語形であると解釈し,阿弥陀仏と甘露とを同一視している。
執筆者: 中国では,《老子》に〈天地相い合して甘露を降らす〉とあるように,天地陰陽の二気が調和して降らせる甘美な露と考えられた。後世では太平の世に出現する祥瑞ひとつとみなされた。《白虎通》に,王者の徳が天にまでとどくと甘露が降るというのはそれである。また漢の武帝は銅製の承露盤のさきに仙人掌を設け,そこにたまる甘露を玉にまぜて服用し,仙人になろうとはかったと伝えられる。
執筆者:


甘露 (かんろ)
honey-dew

アブラムシアリマキ)の排出物。植物の葉や枝に微小な液状となってついており,甘いので甘露と呼ばれる。アリはこれを利用するためにアブラムシを守る(共生)ことがある。よく似た現象に露玉(つゆだま)(草の露のこと)がある。これは植物体から蒸散などで排出された水分が液状の粒となって草や木の葉につくもので,空気中の水蒸気が凝結してできるとは異なる現象である。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「甘露」の意味・わかりやすい解説

甘露
かんろ

古代に、不老不死になるとされた神の飲食物。『老子』によると、中国では天下太平のときに天より降るという。サンスクリット語アムリタamta(不死の意)の漢訳で、インドでは飢渇をいやし不死を得る天人の食物をいう。ベーダではソーマ酒をさす。仏教では、須弥山(しゅみせん)頂上にある三十三天の不死の霊液であり、また仏の教法や涅槃(ねはん)をもいう。なお、ギリシア神話のアンブロシアambrosiaも不死の意で、不老不死になるという神の食物である。

[小川 宏]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「甘露」の意味・わかりやすい解説

甘露
かんろ

(1) サンスクリット語アムリタ amṛtaの訳語で,不死,天酒とも訳される。インド神話では,諸神の常用する飲物で,蜜のように甘く,飲むと不老不死になるという。酒あるいは美味な飲物に対しても用い,仏教の教法にもたとえる。 (2) 中国伝説では,王が仁政を行うと,天がその祥瑞として降らすという甘味の液体。

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普及版 字通 「甘露」の読み・字形・画数・意味

【甘露】かんろ

甘い露。太平の象。〔老子、三十二〕天地相ひ合し、以て甘露をす。

字通「甘」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の甘露の言及

【インド神話】より

…ブラフマー(梵天)はそのへそに生えた蓮花から生じたという。太古,ビシュヌが音頭をとり,神々とアスラ(阿修羅)たちは,アムリタamṛta(甘露)を得ようとして,大海を攪拌した。その際,海中から次々と珍宝が出現し,ビシュヌの妃となったシュリー・ラクシュミーŚrī‐Lakṣmī(吉祥天女)もそのときに海中から現れた。…

【ビシュヌ】より

…シバが山岳と関係あるのに対し,ビシュヌは海洋と縁が深い。太古,ビシュヌが音頭をとり,神々は大海をかくはんして不死の飲料アムリタ(甘露)を得ようとした。ビシュヌはその際に海中から生じたシュリー・ラクシュミー(吉祥天女)を妻とし,宝珠カウストゥバkaustubhaを首に懸けた。…

【アブラムシ(蚜虫)】より

…師管の液はアブラムシが必要とするアミノ酸に乏しいので,十分なアミノ酸を摂取するためには,糖分の摂取量が過剰となる。アブラムシの排出物はこの余分な糖を含んでいるので甘く,甘露(かんろ)と呼ばれる。中近東などの乾燥した気候の地方では,甘露が乾いて塊状となったものを集めて食用に供することがある。…

※「甘露」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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