ティーク(読み)てぃーく(英語表記)Ludwig Tieck

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ティーク」の意味・わかりやすい解説

ティーク
てぃーく
Ludwig Tieck
(1773―1853)

ドイツの作家。ベルリンの綱匠の息子として生まれる。いわゆる「前期ロマン派」の巨頭の1人で、ロマン主義文学運動を推進したが、後年には短編の新しいジャンルを開拓した。才気にあふれ、詩に、長・短編小説に、メルヘンに、戯曲に多彩な創作を繰り広げたほか、劇場監督や評論家としても活躍し、シェークスピアのドイツ語訳の業績も残した。

 幼少のころは啓蒙(けいもう)思想の影響下に育ったが、学友ワッケンローダーと南ドイツを旅して中世を再発見し、『芸術を愛する一修道僧の心情吐露』(1797)を共同で著し、またゲーテの『ウィルヘルム・マイスター』に倣って芸術家小説『フランツ・シュテルンバルトの遍歴』(1798)を書いた。このころフリードリヒ・シュレーゲルのロマン主義文学理論に共鳴し、ベルリンとイエナにあってシュレーゲル兄弟シェリング、ノバーリスら「ロマン派」の会合の要(かなめ)の役割を務め、風刺劇『長靴をはいた牡猫(おすねこ)』(1797)や、いわゆるクンスト・メルヘン(創作童話)の典型とされる『金髪のエクベルト』(1797)などによって名を馳(は)せた。グループの解体後は友人の貴族の所領やドレスデンに住み、『人生のゆとり』(1839)のような市井の日常に取材した短編シリーズや、歴史長編『ビットーリア・アコロンボーナ』(1840)などを発表し、演劇界でも活躍、晩年はプロイセン王の知遇を得てベルリンで余生を送った。

 初期の啓蒙主義亜流からロマン主義を経て後期の市民的リアリズムまで幅広い作風をみせたが、その機知イロニー、奔放な空想力が評価される反面、過度の主観主義や深みの欠如を批判する向きもある。日本ではロマン主義期の作品のほかはほとんど顧みられないが、18世紀から19世紀にかけての流動的な文学思潮を体現する文人としての彼の意義は見直されてよい。

[信岡資生]

『大畑末吉訳『長靴をはいた牡猫』(岩波文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ティーク」の意味・わかりやすい解説

ティーク
Tieck, (Johann) Ludwig

[生]1773.5.31. ベルリン
[没]1853.4.28. ベルリン
ドイツの小説家,劇作家。ハレ,ゲッティンゲン,エルランゲンの各大学で学ぶ。在学中ワッケンローダーから深い影響を受けた。 1799年よりイェナにおいてシュレーゲル兄弟,C.ブレンターノらと前期ロマン派の運動を展開,ノバーリスとは特に緊密な親交を結ぶ。 1819年ドレスデンにおもむき,シェークスピアの紹介を中心に演劇の仕事に従事。作品には書簡体小説『ウィリアム・ラベル氏の話』 Geschichte des Herrn William Lovell (1795~96) ,童話劇『長靴をはいた牡猫』 Der gestiefelte Katerと創作童話『金髪のエックベルト』 Der blonde Eckbertを含む『民衆童話』 Volksmärchen (97) など多数。

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