化学辞典 第2版 「テルル酸」の解説
テルル酸(塩)
テルルサンエン
telluric acid(tellurate)
テルルのオキソ酸(塩)のこと.テルル(Ⅵ)酸を意味する.テルル(Ⅳ)酸は,通称の亜テルル酸とよばれれ,さらに,テルル(Ⅵ)酸のなかで,オルトテルル酸H6TeO6をさす.しかし,テルル(Ⅵ)酸には,このほかにメタテルル酸H2TeO4,ポリテルル酸(アロテルル酸)(H2TeO4)n がある.塩は,それぞれの酸に対応する,MⅠ6TeO6,MⅠ2TeO4,(MⅠ2TeO4)n がある.ただし,Teは,正四面体型のTeO4ではなく,正八面体型のTeO6,またはその頂点や稜を共有してつながった構造が含まれている.
酸:(1)オルトテルル酸;H6TeO6(229.66).TeO2を,加熱したHNO3中で,KMnO4などで酸化する方法(立方晶系のものができる)や,単体のTeをHClO3,H2O2,または硫酸とCrO3で酸化すると生成する.立方晶系のものを酸性水溶液にしてから析出させると,より安定な単斜晶系のものにかわる.立方晶系のもの(密度3.163 g cm-3)は,1種類の正八面体型のTe(OH)6からなる.Te-OH約1.81~1.98 Å,O-H…O約2.56~3.02 Å.単斜晶系のもの(密度3.068 g cm-3)は,2種類のTe(OH)6からなる.Te-O約1.91~1.93 Å,O-H…O約2.7 Å.10 ℃ 以下では,四水和物の結晶も得られている.封管中では融点136 ℃.水に易溶.水溶液は弱酸性示す.K1 2×10-8,K2 1×10-11,K3 3×10-15.希硝酸に可溶,濃硝酸に難溶.100~200 ℃ に加熱すると,ポリテルル酸 (H2TeO4)n(n ≒ 10)になる.酸化剤としてはたらく(SO2をH2SO4に酸化する.濃塩酸中でH2TeⅣ O3になるなど).有毒.[CAS 7803-68-1].
(2)メタテルル酸;H2TeO4(193.61).組成式であり,実際は存在せず,重合形の (H2TeO4)n のみが知られている.[CAS 13520-55-3].
(3)ポリメタテルル酸;(H2TeO4)n.オルトテルル酸を封管中で140 ℃ 以上に加熱するか,空気中で160 ℃ 以上に加熱すると,n ≒ 10のものが得られる.封管中でオルトテルル酸を約300 ℃ に加熱すると得られる.シロップ状のものは,各種のn ≒ 10のポリテルル酸の混合物(オルトテルル酸も含む)であるが,これをアロテルル酸(allotelluric acid)という.正八面体型のTeO6が稜共有で鎖状に重合した構造の骨格をもつ.
塩:(1)オルトテルル酸塩;MⅠ6TeO6.結晶中には [TeO6]6- が存在する.結晶内では,陽イオンの MOx と,O共有でつながっていることもある.たとえば,Mg6TeO6(296.51)は,計算量のオルトテルル酸とMgCO3との混合物を溶融すると得られるが,正八面体型のTeO6(Te-O約1.91 Å)とMgO6からなる.そのほか,LiⅠ,AgⅠ,HgⅡなどにも正八面体型のTeO6が存在する.また,MⅠ2H4TeO6,MⅠ H5TeO6などの酸性塩や,MⅠ2TeO2(OH)4,MⅠTeO(OH)5などの塩基性塩も知られている.
(2)メタテルル酸塩;MⅠ2TeO4.この式は組成式で,正四面体型のTeO4は存在せず,正八面体型のTeO6が両側とそれぞれ稜の2個のOを共有して鎖状につながった構造をもつ.Na2TeO4(237.58)やK2TeO4(209.80)は,オルトテルル酸水溶液にそれぞれNaOH,KOHを加えて反応させた後,蒸発すると結晶が得られる.Na塩は水に微溶,K塩は易溶.K塩は水和物もつくる.いずれも無水物はTeO6がO共有でつながった無限鎖構造をもつ.Te-O約1.85~2.05 Å.アルカリ土類金属塩(たとえばCaTeO4)は水に難溶で,アルカリ金属塩水溶液と各塩化物などの水溶液反応で沈殿として得られるが,同様な鎖状の構造をもつ.
なお,二量体や,オリゴマーも知られている.また,K2TeⅣ TeⅥ3O12,BaTeⅣ TeⅥ O6などの TeⅣ,TeⅥの両方を含むものも知られている.さらに,[TeⅥ(MoO4)6]6- などのヘテロポリ酸イオンも生成する.[CAS 10101-83-4:Na塩][CAS 15571-91-2:K塩]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報