テレンティウス(読み)てれんてぃうす(英語表記)Publius Terentius Afer

日本大百科全書(ニッポニカ) 「テレンティウス」の意味・わかりやすい解説

テレンティウス
てれんてぃうす
Publius Terentius Afer
(前195ころ―前159)

古代ローマの喜劇作家。カルタゴ生まれのリビア人。ローマでテレンティウス家の奴隷となるが、主人に才能を認められ、自由人と同じように教育を受け、解放されて主人の名前を与えられた。やがて小スキピオを中心とするギリシア文化愛好家のサークル(スキピオ・サークル)に受け入れられ、その後ろ盾により喜劇作家としてデビューし、成功を収めた。紀元前159年ギリシアに遊学し、その地で没した。

 処女作は『アンドロスの女』で、前166年に初演された。一説によれば、初演に先だって老大家カエキリウスの前で朗読して認められ、スキピオ・サークルに受け入れられるきっかけとなった。第二作『義母』の初演(前165)は、軽業(かるわざ)師の興行と重なって観客が集まらず、途中で上演を中止するほどの失敗であった(前160年の第3回上演では成功)。続いて前163年に『自虐者』、前161年に『宦官(かんがん)』『ポルミオ』、前160年には傑作『兄弟』を発表。これらの作品は、プラウトゥスの場合と同様、ギリシア新喜劇の翻案だが、プラウトゥスの作品と多くの点で異なっている。それは、前口上粗筋の紹介ではなく、批評家の非難(とくに、「継ぎはぎ」によって原作をだいなしにしたという)への反論であること、筋がより一貫性のあるものとなっていること、ギリシアの地理や習慣が比較的よく守られていること、などである。しかし、もっとも大きな相違は、プラウトゥスがときには野卑になることも恐れず、爆発的な笑いを追求したのに対し、テレンティウスは洗練された、瞑想(めいそう)的、人道主義的な人間観察者であったことである。カールマルクス終世信条としたといわれる「私は人間である。人間に関することなら、みんな他人(ひと)ごととは思わない」(自虐者)ということばは、この側面をよく伝えている。

[土岐正策]

『鈴木一郎訳『ギリシア喜劇全集5』(1979・東京大学出版会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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