日本大百科全書(ニッポニカ) 「テングタケ」の意味・わかりやすい解説
テングタケ
てんぐたけ / 天狗茸
[学] Amanita pantherina (Fr.) Secr.
担子菌類、マツタケ目テングタケ科の毒キノコ。傘は径10~20センチメートル、初め丸く、のちに平らに開く。表面は灰褐色ないし暗褐色で、上に多数のかさぶた状の白いいぼいぼが点在する。このいぼは、つぼの破片である。ひだは茎に離生。茎は長さ10~25センチメートル、太さ1~2.5センチメートルで、中ほどに膜質のつばをつける。根元には、つぼの破片が2~3段、環状に並ぶ。夏から秋、松林に多くみられる。
著名な毒茸(どくたけ)であるが、致命的な毒ではない。食後15~30分で症状が現れ、酒に酔ったような興奮状態になり、精神錯乱、幻覚、視力障害をおこしたあと、深い眠りに陥るが、回復も早い。ときに嘔吐(おうと)を伴うことがある。
[今関六也]
毒成分
以前はムスカリンというアルカロイドと考えられていたが、実際にはムスカリンの含有量は少なく、ベニテングタケと同じくイボテン酸とムッシモールという物質であることが、最近の研究で判明している。なお、ムスカリンはアセタケ属に多量に含まれる成分で、自律神経系に障害を招き、多量の発汗、瞳孔(どうこう)縮小、不整脈、心臓衰弱などをおこす。
テングタケには、ハエトリタケという地方名もある。これは、テングタケやベニテングタケを室内に置くと、ハエが集まり、なめて倒れるからである。ハエを誘引するのは1・3-ジオレインという特殊な脂肪成分であることが武藤聡雄によって明らかにされ(1968)、化学的合成にも成功している。この脂肪成分は、イエバエのほかにミズアブ、トビムシ、ハネカクシなども誘う。また、なめて倒れるのは、先のイボテン酸とムッシモールの効き目であるが、ハエは死ぬのではなく麻痺(まひ)するだけで、2日ほどたつと生き返るという。テングタケを塩蔵または乾燥して保存し、毒性をなくして食用にする地方(長野県上田市付近)もある。
[今関六也]