改訂新版 世界大百科事典 「デウカリオン」の意味・わかりやすい解説
デウカリオン
Deukaliōn
ギリシア神話で,旧約聖書の洪水伝説のノアにあたる人物。プロメテウスの子。エピメテウスとパンドラの娘ピュラPyrrhaを妻としてテッサリア地方を治めていたが,人間の堕落を怒ったゼウスが人類を滅ぼすべく大洪水を起こしたとき,父からこのことを警告されていたデウカリオンは,あらかじめ準備した箱舟に妻とともに乗り込み,10日目にパルナッソス山に着いて死を免れた。水が引いてから,人類の回復を願う二人に,母の骨を背後に投げよとの託宣があり,これを石と解した二人が肩越しに石を投ずると,デウカリオンの投げた石は人間の男に,ピュラのそれは女になった。こうしてギリシア人の祖先たるヘレンHellēnが生まれたことにより,古代のギリシア人はみずからをヘレネスHellēnes,国土をヘラスHellasと称するようになったという。
執筆者:水谷 智洋
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