改訂新版 世界大百科事典 「でっちあげ」の意味・わかりやすい解説
でっちあげ
frame-up
私利私欲や政治的目的などのために,特定の人物や集団を標的に選び,虚偽の事実によって犯罪の筋書きを捏造(ねつぞう)し,また作為的に事件を惹起して,〈犯人〉をスケープゴートに仕立てあげ,じゃま者として排除し追放していく情報操作や事件操作の技術。フレームアップともいう。その攻撃対象とされ犠牲となる側からみれば,それは虚偽を動員した悪質な策略,不当な陰謀ということになる。とりわけ政治的フレームアップは,歴史の転換期や変動期に,支配勢力や権力奪取をねらう側から社会的偏見に訴えかける政治謀略として仕掛けられ,有意味な対抗相手を不当に陥れ排除する事態画策の便法として利用される。歴史的に有名な事例として次のものがある。19世紀末フランスにおいて,ユダヤ人のドレフュス大尉が反ユダヤ主義者の宣伝(世界制覇の陰謀者ユダヤ人)や軍部の横暴によって犠牲を強いられたドレフュス事件,1910年,数人の無政府主義者による爆弾試作をとらえて,明治天皇暗殺計画のかどで多数の社会主義者を逮捕し大逆罪に仕立てて,幸徳秋水以下12名を死刑に処した大逆事件,1917年のソビエト政権成立を契機に,アメリカにおいて急激に高まった〈赤〉への恐怖からその犠牲となったサッコ=バンゼッティ事件,作為的に事件を仕組んで共産主義者の仕業と宣伝し,ヒトラーによるナチス独裁成立の重要な契機となった1933年のドイツ国会議事堂放火事件,1934年12月,ソビエト国家に対する反共産主義的陰謀のかどでレニングラードの党指導者キーロフらが暗殺され,以後のスターリンによる大粛清の発端となったキーロフ暗殺事件。
このようにでっちあげとは,典型的には政治的反対者を疎外し弾圧・粛清する政治謀略の技術,また社会的な偏見や不安・恐怖を動員して象徴的犠牲を有標化し記号化する技術である以上,高度大衆社会・管理社会において従来にもまして利用されかねない操作の技術である。
→陰謀 →デマ →魔女裁判
執筆者:坂本 孝治郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報