改訂新版 世界大百科事典 「トウゴロウイワシ」の意味・わかりやすい解説
トウゴロウイワシ
Allanetta bleekeri
スズキ目トウゴロウイワシ科の海産魚。別名トウゴロイワシ。この科は系統的にはボラやカマスに近く,世界中の温帯・熱帯水域から150種ほどが知られている。トウゴロウイワシは本州中部以南,黒潮流域の沿岸にふつうに見られる。体は細長くて青灰色,体側に銀白色帯が縦走する。頭部の背面と吻端(ふんたん)は黒い。一見イワシに似るが,背びれが前後の2基に分かれ,うろこも硬くはがれにくい。体長15cmに達する。海の表層を群れて泳ぎ,物に驚くとそろって空中に跳び出し,きれいな弧を描いて水面に突っ込む。夜間灯火に集まる性質が強い。産卵期は夏で,稚魚の群れは内湾でもよく見かけられる。小骨が多く不味なので食用にはされないが,まれにはカツオ釣りの餌として使われる。東京でキイワシ,浜名湖でカワイワシ,三重県尾鷲でドボなどと呼ばれる。
日本沿岸では,ほかにオキナワトウゴロウ,ムギイワシ,ギンイソイワシなどの近縁種を産するが,いずれも体長10cm内外の小型魚である。
南カリフォルニア産の近縁種グラニオンgrunionは特異な産卵生態で知られる。本種は2~9月の間,新月か満月の後の2~3夜,満潮時に大群をなして岸に押し寄せ,壮観を呈する。その中の雌がまず波打ちぎわに上がり身をよじって砂中に潜り,深さ5~6cmのところに産卵すると,続く雄は雌に巻きついて放精する。産卵後親魚は波とともに去るが,卵は砂中にとどまり,卵発生が進む。約2週間後,次の大潮の満潮時に再び波がやってくると数分以内に卵は孵化(ふか)し,仔魚(しぎよ)は波に乗って漂い去る。孵化は波の振動に刺激されて起こるという。カリフォルニア湾に産する別種のグラニオンは,やはり月齢に合わせた産卵周期を示すが,産卵行動を昼間に行う。外国産の若干の種は汽水~淡水域にすみ,なかには体型や体色がおおいに異なるもの,大型で食用魚として重要なものも含まれている。1967年,神奈川県の津久井湖に試験放流されたペヘレイは全長60cmに達する。原産地のアルゼンチンでは釣魚として人気がある。
執筆者:羽生 功
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報