日本大百科全書(ニッポニカ) 「トコブシ」の意味・わかりやすい解説
トコブシ
とこぶし / 床伏
Japanese abalone
[学] Sulculus diversicolor aquatilis
軟体動物門腹足綱ミミガイ科の巻き貝。北海道南部から九州に分布し、潮間帯付近の岩礁にすみ、干潮時は石の下などに潜み、はう速度が速い。殻長70ミリメートル、殻幅50ミリメートル、殻高15~20ミリメートルに達し、殻は卵形で形態はアワビ類に似ているがやや長めで扁平(へんぺい)。背側縁に沿って水管孔が6~8あり、アワビ類の4~5より多く、孔の縁も低くて管状をなさないことなどでもアワビ類と区別できる。殻表は殻頂から弱い放射肋(ろく)が出て、粗い成長脈と交わっている。色は通常黒みを帯び、全体に緑褐色斑(はん)がある。殻の内面は真珠光沢をもつ。産卵期は9~10月。肉は灰褐色を帯びて柔らかく美味。アナゴ、ナガレコ、ナガラミなどの地方名がある。九州以南に産し、螺塔(らとう)がやや高くて螺肋が明らかな型をフクトコブシS. d. diversicolorというが、両亜種の境界はかならずしも明らかでない。
[奥谷喬司]
料理
形、味ともアワビに似ているので小形のアワビとして用いられることもある。生食することはほとんどない。下ごしらえは、表面にたっぷり塩をふってたわしでこすり、さっと洗って使う。殻から身を外すときは空鍋(からなべ)に入れ、蓋(ふた)をして火にかける。小さい姿を生かして、殻付きのまま甘辛く煮しめたり、殻を外してつけ焼き、佃煮(つくだに)風に煮て用いる。
[河野友美]