翻訳|relativism
一般的な意味では,唯一絶対の視点や価値観から何ごとかを主張するのではなく,もろもろの視点や価値観の併立・共存を認め,それぞれの視点,価値観に立って複数の主張ができることを容認する立場をいう。複数主義,多元主義pluralismに近く,絶対主義absolutismや普遍主義universalismに対立する。この対立の深刻な場面は,倫理的価値,宗教的価値に最もよく現れる。多くの場合宗教は唯一絶対の倫理的な価値を主張するからである。カトリシズム(本来の意味は〈普遍主義〉である)はその典型と言われるが,そうした主張は他の宗教的価値との間の激しい抗争を生むばかりでなく,その宗教の内部にもその土着化による変容の可能性を巡る問題などが生じる。カトリックにおける第2バチカン公会議以降のエキュメニズム(世界教会)運動は,このような状況に対する解答の模索である。
相対主義は,政治的イデオロギーの場面でもありうるが,今日目だつ一つの局面は,文化相対主義cultural relativismである。上述の宗教や倫理的価値も含めて,一つの文化圏と他の文化圏の間に,絶対的尺度を設けてその優劣を論じようとする態度を捨てるのがその特徴であり,現在の文化人類学や比較文化論,民族音楽学などは基本的にはこの立場をとる。こうした相対主義が,共時的に存在する文化の間にではなく継時的に存在する文化の間に働くとき,歴史相対主義historical relativismが現れる。この立場は,歴史を単線的な社会の進歩の跡付けとみなす進歩史観と対立する。興味深いことに,多くの絶対主義者にとって,相対主義という言葉はそれだけで否定的価値,つまり悪を意味している。なお,例えば英語のrelativismなどの欧語は,アインシュタインの相対論的立場(特殊相対性理論および一般相対性理論)を指すことがあり,古典論的考察に対立しても使われる。このような文脈でのrelativismには,相対主義よりも,相対論,相対論的解釈などの訳語が使われる。
執筆者:村上 陽一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
「絶対的な真理はありえない。どのような立場もそれなりに正しい」と主張する立場。この立場の否定である絶対主義に相対主義を適用すると、これも正しいことになるので、相対主義はこのままの形では整合的に維持することはむずかしい。しかし、実際に一つの論点をめぐって多くの立場が争っているときに、そのそれぞれの長所と短所を具体的に指摘し、どれにも絶対的な優位はありえないことを指摘することができる場合は意外に多いし、またそういう場合にその指摘はしばしば有効である。議会制度のように、多数の対立意見に平等な発言権を認めようとする制度は、この有効性の経験のうえにたつものであろう。このような実際的な相対主義は、独断的に一つの立場の絶対的な正しさを前提し、これを他に強制するやり方に比べ、流血の惨を招くことが少ないとして、これを支持する者も多い。
[吉田夏彦]
…サンジャヤ・ベーラッティプッタやゴータマ・ブッダと同様,彼は言語による真理表現の可能性を深く模索した結果,真理は多様に言い表すことができると説き,あらゆる事物に関して一方的判断を避けて相対的な立場より考察せよ,と教えた。これがマハービーラの思想を特徴づける相対主義(アネーカーンタ・バーダAnekānta‐vāda)である。具体的な言語表現の仕方としては,〈これである〉とか〈これではない〉といった断定的な言い方をさけて,常に〈ある点からすると(スヤートsyāt)〉という限定を付すべきであるとし,いわゆるスヤード・バーダsyād‐vāda理論を説いた。…
※「相対主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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