日本大百科全書(ニッポニカ) 「トレード・オフ」の意味・わかりやすい解説
トレード・オフ
とれーどおふ
trade-off
経済的に両立しえない関係がみられ、一方を追求すると他方が犠牲になることをいう。たとえば、物価と失業率の対応関係を示すフィリップス曲線によると、物価上昇率が低いときには失業率は高くなり、失業率が低いときには物価上昇率は高くなる。P・A・サミュエルソンとR・M・ソローは、このフィリップス曲線をトレード・オフ曲線とよび、経済政策によって完全雇用を目ざせばインフレは避けられず、物価安定を目ざせば失業は避けられないと主張する。このような場合、完全雇用と物価安定はトレード・オフの関係にあるといわれる。
経済政策の目標には、完全雇用や物価安定のほかに、経済成長、社会資本の充実、所得と富の分配の改善、資源の有効な配分などがあるが、これらの目標の間にはしばしばトレード・オフの関係が生じる。たとえば、福祉政策を充実すれば増税となり、減税すれば福祉政策は後退する。このような場合には、両者についてのさまざまな制約条件を考慮してから、もっとも適切な妥協点を選択することが必要である。
[畑中康一]