福祉政策(読み)ふくしせいさく

改訂新版 世界大百科事典 「福祉政策」の意味・わかりやすい解説

福祉政策 (ふくしせいさく)

イギリスソーシャル・ポリシーsocial policyという場合,労働者保険を中心とする社会政策をも包含した概念で,経済政策と並んで幅広い政府施策を総称する用語である。しかし日本で福祉政策という場合は,労働者政策としての社会政策や教育,住宅,保健行政などを除いて,狭義の社会福祉の政策をさして用いられることが多く,必ずしもソーシャル・ポリシーと同義ではない。

日本では,福祉政策の基本的性格をめぐって,いくつか対立する見解が並存している。(1)独占資本国家権力とが癒着した国家独占資本主義が,その構造的必然所産である社会的問題を合目的的に緩和・解決する補充的政策であるとする立場,(2)同じく国家独占資本主義を認めながら,その労働運動に対する譲歩としての生活問題対策であると位置づける立場,(3)経済的には修正資本主義ないし混合経済体制,政治的には労働者政党を加えた社会民主主義のもとで,社会問題緩和・解決のためにとられる政策とみる立場,などをあげることができる。また,やや別の角度からR.M.ティトマスは,(1)残余福祉モデル,(2)勤労業績モデル,(3)制度的分配モデル,の三つのモデルに分類している。それらは福祉政策を,(1)市場経済と家族とでは満たせないニーズを残余的に充足するもの,(2)勤労意欲をそこなわないよう勤労の成果,メリットに応じてニーズを充足すべきもの,(3)社会資源をニーズに応じて水平,垂直,かつ時間的に社会的公正に即して分配するもの,とする考え方である。R.ピンカーは,(1)古典経済学理論,(2)マルクス主義とそれを継承した社会主義,(3)重商主義的集団主義の伝統,の三つのモデルをあげ,現実には純粋な利他主義も利己主義もありえないから,われわれはもう一度重商主義的集団主義の相互扶助の伝統を見直す必要があるとする。

 福祉政策をめぐる最近の主要な論点をいくつか列挙すると,第1に,社会的公正の問題,すなわち,それを平等equalな配分と考えるか公正fairな配分と把握するか,その基礎は何かの問題がある。1960年代後半にイギリスやアメリカで現れた積極的優遇策positive discriminationは,公正な配分の考えに立っている。歴史的には20世紀の初めまでに政治的権利の平等が達成され,20世紀になって,経済的,社会的権利の平等が課題となった。1931年に書かれたR.H.トーニーの《平等Equality》は,道徳観に立脚した平等論というべきだが,最近の理論的な公正論として,J.ロールズの《公正の理論The Theory of Justice》がある。第2に,社会的ニーズと資源の関係の議論が続いている。これは経済成長と社会福祉との関係にかかわるもので,端的には成長が先か福祉が先かの議論につらなっている。低成長とスタグフレーションが定着したなかで,適度な成長が福祉の前提であるとする認識が広まっているが,福祉は必然的に社会の活力を奪うものであるか(いわゆる英国病)が問われている。第3に,社会的権利をめぐる法律主義と裁量の問題があるが,権利性を高めるためには法律で詳細に規定すべきだとする主張と,福祉ニーズの個別性,多様性を重視して,裁量こそむしろ権利性を保障するものという議論がある。

 このほか,普遍性と選別性(〈ソーシャル・アドミニストレーション〉の項参照),コミュニティ・ケア,市民参加などの論点が現実の政策課題となっている。
社会福祉
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