ドゥエ(その他表記)Giulio Douhet

改訂新版 世界大百科事典 「ドゥエ」の意味・わかりやすい解説

ドゥエ
Giulio Douhet
生没年:1869-1930

イタリアの陸軍少将で熱烈な戦略爆撃論者。イタリアのカゼルタに生まれる。第1次世界大戦に師団参謀長として参加,その経験から戦争空間が陸・海から空中に拡張されたことに着目,将来戦の帰趨を決するものは空軍であるという空軍万能論を提唱した。すなわち,最も機動性に富む兵器としての航空機で敵の政経中枢を徹底的に爆撃して国民の士気を破砕し,また敵航空基地の急襲と航空機工場の破壊によりその航空活動を封殺する。これこそ戦勝の決定的要因で,空中を制せられた陸海軍はほとんど無力となるので,この間,専守防衛に徹すれば足りる,とする。この戦略爆撃絶対論は多大の反響を呼ぶと同時に各国の空軍用兵思想に大きな影響を与えた。
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ドゥエ
Douai

フランス北部,ノール県工業都市。人口4万4742(1999)。起源は古代ローマ都市ドゥアクムDuacumにさかのぼり,中世にベチュヌ,バランシエンヌなどとともに,ドーバー海峡カレー)から大陸内部に至る交通路沿いの都市として発展近世にフランドル地方の中心的都市に成長した。19世紀,〈石炭盆地bassin houiller〉の炭田開発に伴い,工業化と都市化が進んだ。16世紀に創設された大学は現在リール大学に吸収されてしまったが,今なお工業学校農業学校などの高等専門学校が残る。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドゥエ」の意味・わかりやすい解説

ドゥエ
Douai

フランス北部,ノール県,リール南方 30kmの鉱工業都市。中世にはフランドル地方の毛織物産業の一中心として栄え,自治権も強かった。初めフランドル伯領,のちスペイン領となり,1713年以来フランス領。 19世紀,東方バランシエンヌにかけて大炭田が開発され,フランス北部炭田地帯の中心都市の一つとして発展。鉄鋼,鋳造,化学,綿織物,縫製,食品加工などの工業がある。 16世紀後半には,イングランドから多数のローマ・カトリック教徒が亡命,イギリス人宣教師養成のための大学が設立され,ドゥエ聖書がつくられた。市庁舎 (15世紀) やノートル・ダム聖堂 (13世紀) などが残る。人口4万 4195 (1990) 。

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百科事典マイペディア 「ドゥエ」の意味・わかりやすい解説

ドゥエ

イタリアの軍人。陸軍少将。カゼルタに生まれる。師団参謀長として参加した第1次世界大戦の経験から,将来の戦争が空に拡大した戦争空間の制覇にかかわることに注目,以後20世紀の戦争を特徴づけることになる戦略爆撃の重要性をいちはやく主張した。彼の空軍万能論,戦略爆撃絶対論は,航空機の機動力を最大限生かして,敵の軍事基地や軍需工場を壊滅させるというだけでなく,敵の政治・経済の中枢を徹底的に破壊して国民の士気をも粉砕するという総力戦的なイメージまで含んでいたが,制空権を支配された陸海軍は必然的に無力化するので自軍は専守防衛で十分とする考え方であった。この理論は各国の空軍用兵理論に大きな影響を与えた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドゥエ」の意味・わかりやすい解説

ドゥエ
どぅえ
Douai

フランス北部、ノール県にある都市。人口4万2796(1999)。リールの南36キロメートル、スカルプ川に沿う。北フランス炭田の中心地であったが、石炭業の衰退に伴って自動車、印刷工業が産業の中心となった。1562年フェリペ2世の支配下に建てられた大学が1887年リールに移されるまでは、重要な学園都市であった。ゴシック式の塔(14~15世紀)をはじめ歴史的建造物が残る。控訴院の所在地。

[高橋伸夫]

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世界大百科事典(旧版)内のドゥエの言及

【空軍】より

…第1次大戦における航空機の活躍に関心をもったイギリスは,資源と予算の効率的使用をも考慮して,18年4月,第3の軍種として空軍を独立させ,敵領土攻撃のための爆撃機と国土防衛のための戦闘機の整備を推進した。1920年代イタリアのG.ドゥエやアメリカのW.ミッチェルなどが,大型爆撃機で敵の軍事,工業,政治の中心を反復爆撃することにより軍需生産を崩壊させ,国民の抗戦意志を挫折させることが可能であり,航空戦力が戦争の勝敗を決定するという空軍万能論を展開した。第1次大戦以来の作戦教訓,航空兵器の進歩は空軍万能論と相まち,従来の陸・海軍支援(協同)作戦とともに独立して行う戦略航空作戦思想を定着させ,逐次イタリア,カナダ,ドイツ(1935年再軍備時)などが空軍を独立させた。…

※「ドゥエ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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