ドゥンガン(読み)どぅんがん

改訂新版 世界大百科事典 「ドゥンガン」の意味・わかりやすい解説

ドゥンガン (東干)
Dungan

中国西北部の回族を指す東トルコ語起源名称。東トルコ語の元の形はトゥンガンTunghan。動詞tönmäk(回る,向かう)の派生語とする説が有力で,〈正しい信仰に立ち戻った者〉の意とも,中国語〈回回〉の訳語ともいう。ときには自称としても用いられた。その起源は一般に,元代にこの地方に定住した西方イスラム教徒の集団に求められているが,現在では宗教的慣習を除き,言語その他の生活習慣は完全に漢化しており,容貌漢族と区別しがたい。清代にはしばしば反乱を起こしたが,ことに1862年(同治1)陝西の一小村に発した漢・回の衝突は,翌年には甘粛に波及し,64年には新疆でもドゥンガンとウイグルの反乱が始まった。左宗棠(さそうとう)麾下の清軍は71年までに陝西・甘粛を平定したが,一部のドゥンガンは新疆に逃れ,77年(光緒3)に新疆が再征服されるとさらにロシア領へ逃亡した。ソ連に存在する2万余り(1959年調査)のドゥンガンは,主としてこの時移住した集団の子孫である。
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百科事典マイペディア 「ドゥンガン」の意味・わかりやすい解説

ドゥンガン

中国,甘粛省・新疆ウイグル自治区などに住む回族イスラム教徒)を指す東トルコ語起源の名称。漢字では東干。中国語を話すので〈漢回〉ともいわれる。この名称は18―19世紀の東トルキスタンのトルコ人,ロシア人やヨーロッパの旅行者の間で用いられた。現在では宗教的慣習以外は漢化している。清末には1862年―1863年の陝西から甘粛に及ぶ漢族との衝突,1864年以降の新疆におけるウイグル人と一緒の反乱があったが,1931年―1934年,新疆で馬仲英の率いた反乱軍はやがてトルコ系ムスリムと敵対するにいたった。
→関連項目新疆

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドゥンガン」の意味・わかりやすい解説

ドゥンガン
どぅんがん

中国の甘粛(かんしゅく)省、新疆(しんきょう)ウイグル自治区、とくに天山北路に住み中国語を用いるイスラム教徒。漢字で「東干」と表記される。トゥガンともいい、ともに「(イスラム教への)改宗者」を示すトルコ語らしい。また漢回ともよび、これに対してウイグル人イスラム教徒を纏回(てんかい)という。1862年に陝西(せんせい)・甘粛のイスラム教徒の清(しん)朝への反乱は新疆へも波及し、64年、グーチェン、ウルムチ、イリ、クチャなどのドゥンガンが反乱を起こして各地に政権をたてたが、東トルキスタンのヤクブ・ベクの軍に敗れた。ドゥンガンは1867年にイリの七城をはじめ天山北路を制圧したが、イリは71年ロシアに占領され、ドゥンガンの反乱は77年までに清(しん)の左宗棠(さそうとう)によって鎮圧された。現在では回族、回民とよばれる。

[護 雅夫]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ドゥンガン」の解説

ドゥンガン
Dungan

トゥンガン(Tungan)ともいう。甘粛省,新疆(しんきょう)など中国西北部に住む中国語を用いるムスリム(回民)に対するトルコ系ムスリムからの呼称。清朝時代には,トルコ系の「纏回(てんかい)」に対し,「漢回」と呼ばれた。1864~77年に新疆で反乱を起こしたほか,1931~34年にも反乱に介入した。現在は中国内地のムスリムも含め,回族と呼ばれる。なお,中央アジアに移住した回民の子孫たちはドゥンガンと呼称される。

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世界大百科事典(旧版)内のドゥンガンの言及

【回教徒蜂起】より

…73年に鎮圧され,陝西における反乱の中心人物白彦虎は新疆に逃れた。この陝甘の反乱は新疆に波及し,当地の中国人イスラム教徒(東干つまりドゥンガン)は64年にウルムチで乱を起こした。ウイグル人ヤークーブ・ベクは,65年に清朝軍を撃ってカシュガルに進入し,ドゥンガンをも圧して西部4城にイスラム政権を樹立し,ロシアはこの機に乗じてイリを占領した。…

【ソビエト連邦】より

…ソ連全体では1970‐79年の人口増加率は8.4%で,そのうちスラブ系3民族は5.8%であるのに対して,上記5民族は31.8%に達していた。この地方には漢民族系でイスラム教徒であるドゥンガンやウイグル人,また朝鮮人(大部分は1937年に極東地方から強制移住させられた)などの民族もいる。 チュルク諸語系の民族はソ連に20民族あるといわれるが,そのおもなものは上記のほかに,ボルガ中流,南ウラルのタタール人,チュバシ人,バシキール人,南シベリアのアルタイ人,トゥバ人,ハカス人,東シベリアのヤクート人,カフカス地方のアゼルバイジャン人,ノガイ人,カラチャイ人,バルカル人などである。…

※「ドゥンガン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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