甘粛(読み)カンシュク

デジタル大辞泉 「甘粛」の意味・読み・例文・類語

かんしゅく【甘粛】

中国中北部の省。省都蘭州らんしゅう古来天山南北路に連なる東西交通の要路にあり、前漢時代に、武威張掖ちょうえき酒泉敦煌とんこう河西かせい四郡が置かれた。人口、2594万人(2005)。ろうカンスー

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「甘粛」の意味・わかりやすい解説

甘粛(省)
かんしゅく / カンスー

中国北西部の省。中国東部から西域(せいいき)への門戸となる位置にあり、省内をシルク・ロードや万里長城が縦断する。面積約45万平方キロメートル、人口2533万6508(2000)。回族、チベット族、トンシャン族、モンゴル族、ハザク族、ユーグ族、サラール族などの少数民族が7~8%を占める。省政府は蘭州(らんしゅう/ランチョウ)市に置かれ、金昌(きんしょう)市、嘉峪関(かよくかん)市、白銀市、天水市が地区級市である。ほかは7地区、2自治州(甘南ツァン族、臨夏(りんか)回族)に分かれる。

 省域は南東より北西に細長く、南東部は黄土(こうど)高原と、青蔵(せいぞう)高原につながる険しい山地からなり、その間に渭河(いが/ウェイホー)や黄河(こうが/ホワンホー)の上流が盆地を形成している。北西部は祁連(きれん/チーリエン)山脈の北麓(ほくろく)に沿う河西(かせい)回廊と、その北の内モンゴル高原の一部を含む。気候は両地域で大きく異なり、南東部は比較的降水量も多いのに対し、北西部は大陸性の乾燥気候で砂漠に近い。もっとも南部の白竜江(はくりゅうこう/パイロンチヤン)地区は揚子江(ようすこう/ヤンツーチヤン)流域に属し、温暖多湿である。

 耕地は、南東部では盆地や黄土高原上の平坦(へいたん)面に、北西部では河西回廊オアシスに分布し、その約4分の1は人工的に灌漑(かんがい)されている。作物の大部分は小麦、雑穀で、経済作物としてはラッカセイサトウダイコンが多い。蘭州付近の果物も有名である。丘陵や山地では牧畜も盛んで、青海(せいかい/チンハイ)省に近い山地で飼育される河曲馬や欧拉(おうら)羊は名高い。しかし黄土地帯での水土保持、砂漠周辺の耕地の砂漠化防止など、これからの開発へ問題も多い。天然資源としては、古くから開発された玉門(ぎょくもん/ユイメン)油田のほか、鉄、石炭もあるが、有色金属や非金属資源にみるべきものが多い。また蘭州付近の黄河上流部には、劉家峡(りゅうかきょう/リウチヤシヤ)をはじめとして大型ダムが建設され、電力開発のみならず、下流の水害防止、農業灌漑にも利用される総合的ダムとなっている。蘭州にはこのような資源に基づいて石油化学工業基地が設けられ、西北地区で有数の工業都市となっているが、それ以外は玉門などに資源立地型の工業があるほかは全体に遅れている。交通も蘭州を中心に鉄道が発達し、とくに河西回廊は新疆(しんきょう/シンチヤン)と結ぶ大動脈であるが、南西部の山地との交通は進んでいない。

 この地域は春秋戦国時代には異民族の居住地であったが、漢代に河西地域の開発が進み、漢民族と北方異民族の接触地帯となった。甘粛の名も、河西に設けられた甘州(張掖(ちょうえき))と粛州(酒泉(しゅせん))からとられている。また省域の大部分が隴山(ろうざん/ロンシャン)の西にあるところから隴西、隴右ともよばれた。省内には西域との交渉にちなむ文化遺産が多く、敦煌(とんこう)、炳霊(へいれい)寺(永靖(えいせい))、嘉峪関などはとくに有名である。

[秋山元秀]

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百科事典マイペディア 「甘粛」の意味・わかりやすい解説

甘粛[省]【かんしゅく】

中国北西部の省。簡称は甘,隴(ろう)ともいう。省都は蘭州。西は祁連(きれん)山脈が青海省との境界をなし,これとゴビ砂漠の間には長さ1000kmに及ぶ甘粛(別名河西)回廊が延びる。この回廊は古来西域と中国を結ぶ交易路となった。南東部の蘭州平野と回廊地帯のオアシスが農・工業の中心をなし,西部の草原では牧畜も行われる。鉱産は石炭,金,銀,銅,鉄,石油などがある。蘭州と玉門を中心に鉄鋼,機械,石油化学,原子力などの工業が興っている。隴海(連雲港〜蘭州),蘭新(蘭州〜ウルムチ),包蘭(パオトウ〜蘭州),蘭青(蘭州〜西寧)の各鉄路が各地と連絡する。45万4300km2。2713万人(2014)。
→関連項目ドゥンガン

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旺文社世界史事典 三訂版 「甘粛」の解説

甘粛
かんしゅく

中国北西部,黄河上流にある省
現在の省都は蘭州。前漢の武帝のときに河西4郡が置かれ,絹の道が開かれて以来,西域交通の要地となった。敦煌の石窟がある。

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