日本大百科全書(ニッポニカ) 「タミル」の意味・わかりやすい解説
タミル
たみる
Tamil
ドラビタ系言語に属するタミル語を母語とする民族。タミル・ナド州を中心とする南インドとスリランカに居住する。その他、シンガポール、モーリシャス、南アフリカ、近年ではヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリアなどにも移住している。世界での人口は推定8000万人に近く、とくに世界に広がったタミル移民は印僑(いんきょう)ともよばれる。宗教はヒンドゥー教が中心だが、キリスト教や仏教も一部では盛んであり、その他多くの宗教との混交も認められる。古来、インドのタミルは、芸術、音楽、文学、仏教建築などで独自の様式をつくりあげ、南アジア全体の文化や社会に多くの影響を与えてきた。近代になってもたびたび、南インドや移民先でもタミル文化復興運動を起こしている。海洋技術にもすぐれ、貿易や漁業も活発に行ってきた。
タミル社会は宗教や習慣、カーストなどで緊密に結びつき、移民先ではタミル・コミュニティをつくる傾向が強い。タミルの独自の民族意識は、インドにおいてはインド北部と南部の緊張関係にも影響を与え、また、スリランカにおいては多数派のシンハラとの民族紛争の一因にもなった。しかしタミル内にも地域やカーストなどで多様な差異があり、均質的な政治運動等の展開をむずかしくしている。映画やポップ・ミュージックなど、現代のグローバル文化のなかでのタミルの活躍も目覚ましい。
[足羽與志子]