ナショナルトラスト(英語表記)national trust

デジタル大辞泉 「ナショナルトラスト」の意味・読み・例文・類語

ナショナル‐トラスト(National Trust)

歴史的建造物と自然の保護を目的とする英国の民間団体。1895年設立。寄贈や買い取りによってその土地を入手し、保全・管理する。
[補説]正式名称は、The National Trust for Places of Historic Interest or Natural Beauty
自然環境や歴史的地区などの保存を目的とした活動。寄付金や会費などによって森林や海岸、歴史的建造物を買い上げ、保全を行う。トラスト

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共同通信ニュース用語解説 「ナショナルトラスト」の解説

ナショナル・トラスト

自然環境を開発や荒廃から守るため、寄付金を募って土地を購入し将来世代に残す活動。土地の贈与を受ける場合もある。世界40カ国以上で行われ、発祥地の英国ナショナル・トラストは会員数480万人、土地25万ヘクタールを管理している。日本では1960年代に神奈川・鎌倉の森を宅地開発から守るため、市民の募金で買い取ったのが始まりとされる。現在、日本ナショナル・トラスト協会と会員団体の会員数は計17万人。自然環境だけでなく、歴史的建造物などを保全するトラスト活動もある。

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精選版 日本国語大辞典 「ナショナルトラスト」の意味・読み・例文・類語

ナショナル‐トラスト

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] National Trust ) 美しい自然や歴史的建造物を市民からの寄付金などで買い取り保全し、次世代へ伝えようという環境保護運動。一八九五年イギリスでザ・ナショナル・トラストの設立とともに始まり、日本では、昭和四三年(一九六八)に財団法人日本ナショナルトラストが設立された。

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改訂新版 世界大百科事典 「ナショナルトラスト」の意味・わかりやすい解説

ナショナル・トラスト
national trust

元来は1895年イギリスに生まれた自然保護,史跡等保存のための民間組織である。現在はスコットランドにも同様の組織が作られ,オーストラリアにもやや組織形態の異なったものがある。ここでは主としてイングランドウェールズ北アイルランドにおけるナショナル・トラストについて説明する。

 このナショナル・トラストの創立者は弁護士ハンターRobert Hunter,婦人社会活動家ヒルOctavia Hill,牧師ローンズリーCanon Hardwicke Rawnsleyの3人である。正式の名称は,〈史的名勝・自然的景勝地のためのナショナル・トラストNational Trust for Places of Historic Interest or Natural Beauty〉で,ここにいうナショナルは〈国民の〉という意味である。基本的な考え方は,上記対象をこの組織が〈所有〉することによって,保護,保全しようとするものである。1800年代の後半,イギリスでは産業革命に伴って古い記念物が破壊され,自然破壊も進行した。ハンターは当時の法律の欠陥と闘うため,保護すべき対象の〈所有権〉を獲得することを考えて95年以降活動を開始し,さらに,1907年〈ナショナル・トラスト法〉を成立させて,ここにトラストの基礎が固まった。

 本法はその目的として〈美しい,あるいは歴史的に重要な土地や建物を国民の利益のため永久に保存する〉ことを定め,トラストがいったん取得したものについて,譲渡不能の旨宣言する権利をトラストに認めた。30年代には,領主館保存計画に関連する法律が制定され,その後のトラスト発展の一つの柱となった。すなわち,当時,相続法が変わり,かつての美しい領主の館や土地が,相続税支払のため遺族によって売りに出される例が顕著になった。そこで,こうした財産をトラストに寄贈すれば,遺族は引き続いてそこに住むことができるうえに相続税も免除されるという措置によって,多くの領主館が土地とともにトラストの所有となったのである。第2次大戦後に組織はさらに発展した。すなわち,一方で,産業革命当時の工場や運河が〈産業記念物〉として保全の対象になり,他方,トラストによる海岸線買収計画〈ネプチューン計画〉が推進された。65年に始められたこの計画は,早くも82年にはイングランド,ウェールズ,北アイルランドのまだ荒らされていない海岸線のうち約3分の1を,トラストの保護下に入れた。これらトラストの財政は,ほとんどが会員の,低額の会費と寄付によってまかなわれている(会費は1982年現在年額10ポンド)。発足当時数百人であった会員数は,第2次大戦終了時点で1万人に満たなかったが,82年には100万人を超えた。こうしてナショナル・トラストは,イギリスにおける民間最大の土地保有機関となっている。

 日本でも1960年代から大仏次郎らによってナショナル・トラストが紹介されたが,実際上はそれに匹敵する大規模な組織はいまだ生まれていない。北海道斜里郡斜里町の100m2運動,和歌山県田辺市天神崎の市民地主運動をはじめ,多くのなぎさ買収計画や町並保存計画等が知られる。上記トラストの事業を目ざしてつくられた環境資源保護財団も,いまだイギリスのように大規模なトラストを実現するステップとはなりえないでいる。しかし,日本でこのような組織を実現したいという要望は強く,83年には〈ナショナル・トラストをすすめる全国の会〉が結成され,92年には公益法人化されて〈社団法人日本ナショナル・トラスト協会〉が発足。ナショナル・トラストは,日本では国民環境基金などと訳されることもある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナショナルトラスト」の意味・わかりやすい解説

ナショナル・トラスト
なしょなるとらすと
National Trust

イギリスにおいて1895年3人の有志によって設立された民間の歴史的建造物保全・自然保護のための団体である。正式にはThe National Trust for Places of Historic Interest or Natural Beautyと称し、国民のために、国民自身の手で、優れた美しい自然地域や歴史的建造物などを、寄贈、遺贈、買い取りなどで入手し、永久的に保護管理することを目的とする。国は財政的援助は行わないが、1907年「ナショナル・トラスト法」を制定し、資産の取得に対する非課税措置など制度的な特権を保証しており、これによってナショナル・トラストはみごとに発展してきた。会員133万人という大きな組織となり、会員の納める会費年額17ポンドと寄付金を主たる財源として運営されている。また土地約21万ヘクタール、歴史的建造物380、庭園109、美しい海岸線737キロメートルと、膨大な資産を所有し、管理公開を行っている。この運動が先鞭(せんべん)をつけて、アメリカ(1945)、オーストラリアなどでも類似の団体が設立され活動している。

 わが国でも近年、民間の組織によって自然保護、歴史的風土保全などを目的とする運動が始められて着実な展開を示している。

 1964年(昭和39)「鎌倉風致保存会」が初めて設立された。74年には和歌山県の「天神崎の自然を大切にする会」が発足し、77年北海道知床で国立公園内の「知床100平方メートル運動」が活動を開始した。鎌倉の運動は、鶴岡(つるがおか)八幡宮の裏山御谷(おやつ)が開発されそうになったことがきっかけで始まった。1966年に議員立法で古都保存法が成立、同じ年に鎌倉風致保存会が御谷1.5ヘクタールを買収することができた。これが、日本のナショナル・トラスト第1号といわれている。知床の運動は、国立公園内に残った開拓跡地(民有地)を買い取り、開拓前の原生林に復元しようというもの。全国の人々(約4万人)の善意で1997年(平成9)目標は達成された。

 その後、埼玉、神奈川、北海道、近畿、中国、四国、九州とほぼ全国で自然、歴史的風土の保全を目的とする活動が行われてきた(日本ナショナル・トラスト協会の調査では、全国で約60の団体が活動している)。

 1982年ナショナル・トラスト研究会が発足し、ナショナル・トラストの日本名を「国民環境基金」とすることにした。83年以降、ナショナル・トラスト全国大会が毎年行われている。

 1986年には、国民環境基金にかかわる公益法人(自然環境保全法人)に対する税制優遇措置(所得税、法人税、相続税、固定資産税など)が実施されることになった。翌87年「天神崎の自然を大切にする会」が初めて自然環境保全法人として和歌山県知事から認定され、税制上の優遇措置が受けられるようになった。

 1992年には社団法人「日本ナショナル・トラスト協会」が設立され、全国的な組織として広く活動を行っている。政府(環境省)においても、わが国のトラスト運動のあり方について基本的な検討を進めている。

[池ノ上容]

『環境庁自然保護局著『ナショナル・トラストへの道 自然公園50周年シンポジウムの記録』(1982・ぎょうせい)』『藤田治彦著『ナショナル・トラストの国――イギリスの自然と文化』(1994・淡交社)』『木原啓吉著『ナショナル・トラスト』(1998・三省堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナショナルトラスト」の意味・わかりやすい解説

ナショナル・トラスト
National Trust

自然環境や歴史環境を保護するために,住民がその土地を買い取ることにより保存していく制度,運動のこと。 1895年にイギリスの3人の篤志家が自然と史跡の保存を目的に民間団体を設立したのが最初とされる。トラスト trustは特定の目的に役立てることを条件に財産を信託する制度だが,史跡や美しい自然は国民 nationalの共有財産であり,広く一般からの寄付でこれを保存することは国民の信託であるとするところからナショナル・トラストと名づけられた。イギリスでは 1907年「ナショナル・トラスト法」が制定され,買取った資産の保全や寄付行為に便宜をはかるための譲渡不能原則,公開の原則,非課税措置などが認められた。近年,会員数は 113万人,資産面積は 18万 haをこえている。日本では,知床国立公園内の原生林の再生・保全のために 77年に斜里町が呼びかけた「100平方メートル運動」 (1口 8000円の募金) ,貴重な生産種の宝庫である海岸を市民の募金で買取った和歌山県田辺町の「天神崎の自然を大切にする会」など開発地域での自然保護や都市部での史跡保存,緑の保存運動にこの考え方が取入れられ,各地にその運動がみられる。 83年,「ナショナル・トラストを進める全国の会」が結成され,また環境庁も「国民環境基金」という愛称を定め,この運動を育成する姿勢を示した。 85年にはナショナル・トラスト団体として「自然環境保全公益法人」の設立が認められ,寄付金に対する所得税・法人税の控除,固定資産税・不動産取得税の免除が認められ,86年からは相続税の非課税措置が講じられているが,運動の進展にはまだ多くの困難がある。 92年「ナショナル・トラストを進める全国の会」は社団法人「日本ナショナル・トラスト協会」となった。

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百科事典マイペディア 「ナショナルトラスト」の意味・わかりやすい解説

ナショナル・トラスト

正称は〈歴史的名勝地および自然的景勝地のためのナショナル・トラストThe National Trust for Historic Interest and Natural Beauty〉。良好な自然や歴史的環境を守るため,広く国民から寄金を募ってその土地の取得・管理等を行う運動。またその運動を進める民間組織。1895年イギリスで3人の市民の話し合いから設立され,1907年,〈ナショナル・トラスト法〉が制定された。日本では和歌山県田辺市の天神崎市民地主運動,北海道斜里町の知床100m2運動など全国で60件を越える運動がある。1985年,自然環境保全法人(自然環境保全法)の認可を得れば免税団体とされるようになった。
→関連項目自然保護ヒル

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知恵蔵 「ナショナルトラスト」の解説

ナショナル・トラスト

国民から寄せられる資金で地方公共団体や民間団体が良好な自然環境と歴史的環境を持つ土地を取得、管理し環境を守る仕組み。国民環境基金ともいう。1895年に英国の弁護士サー・ロバート・ハンターら3人が創立した。同国では2006年現在、会員は300万人を超え、政府もナショナル・トラスト法(1907年制定)で運動に数々の特権を与えている。日本では、北海道・知床や和歌山県・天神崎の自然保護運動が知られる。92年9月、社団法人「日本ナショナル・トラスト協会」が設立された。

(杉本裕明 朝日新聞記者 / 2007年)

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ナショナルトラスト」の解説

ナショナル・トラスト
National Trust

イギリスの歴史的建造物と自然環境の保護,維持を目的とする民間組織。1895年湖水地方を工業化の弊害から守るために市民が募金活動によって土地を収得したのが,その活動の最初。世界的規模の自然環境保護運動のモデルになった。

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農林水産関係用語集 「ナショナルトラスト」の解説

ナショナル・トラスト

身近な動植物の生息地や都市近郊に残された緑地などを、寄付金などをもとに住民自らの手で買い取って保全していこうとする自然保護活動のこと。この活動はイギリスが発祥の地とされている。

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デジタル大辞泉プラス 「ナショナルトラスト」の解説

ナショナルトラスト

株式会社ハウスオブローゼが販売する基礎化粧品、ボディケア用品のブランド名。

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世界大百科事典(旧版)内のナショナルトラストの言及

【公害】より

…また琵琶湖の水質汚染に対し周辺の滋賀県の主婦たちが,リンを含む洗剤をやめて粉セッケンを使う運動を始め,それが契機になって滋賀県が富栄養化防止条例を制定したように,住民みずから環境汚染への責任はないかと自省して,すすんで生活方式の変革を試み,それを住民運動のエネルギーにするようになった。さらに住民がみずから寄金を出しあって保護すべき環境を買い取るナショナル・トラスト運動も,北海道の斜里町の知床半島の原生林復元運動や,和歌山県田辺市の天神崎買取り運動など各地で活発になってきている。住民運動が自治体をまきこんで積極的に環境創造の運動を展開していることは21世紀を目ざす新しい一つの運動の形態として注目される。…

【町並み保存】より

…歴史的記念物を保存する姿勢は18世紀から多くみられ,19世紀後半になると各国で文化財保護法が制定される。民間の保存団体として1895年にイギリスに設立されたナショナル・トラストは,邸宅建築をそこに営まれる生活を含めて保存しようとする考えを示したものとして画期的であった。20世紀に入り,1930年にフランスで制定された景観保護法では,記念物の周囲をも保護する考えが示され,43年には史的記念物monument historiqueの指定を受けた建築物の周囲500m以内の建物はすべて変更にあたって許可を要すると定められた。…

※「ナショナルトラスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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