宅地開発(読み)たくちかいはつ

改訂新版 世界大百科事典 「宅地開発」の意味・わかりやすい解説

宅地開発 (たくちかいはつ)

宅地開発とは,第1に,利用目的である住宅用地用にかなうように,素地(農地や山林など)としての土地の形質変更を行い,建物を安全に建築しうる敷地に変更する宅地造成を行うこと,第2に,各敷地が都市居住にとって必須の都市施設網(街路,公園,学校,上水道,下水道,ガス,電力,電話などのネットワーク)に支えられるマクロな都市環境整備を行うこと,第3に,敷地どうしの相隣関係,おもに敷地規模,建物の壁面線,容積率建ぺい率,隣地境や道路境にある垣根や塀などのミクロな住環境整備を行うこと,である。

 未曾有の開発ラッシュをまねいた高度経済成長時代に,都市環境が混乱し,スプロール現象がまんえんした一つの原因は,上にあげた本来的な開発の概念を,都市計画の中で位置づけることが不十分だったことにある。宅地開発をすすめる主体によって,公的開発主体と民間開発主体があるが,量的には後者が前者を大きくしのいでいるのが日本の特徴である。質的には,公的宅地開発は相対的にすぐれた住宅地を整備する手法を内在させている(たとえば,ニュータウンづくりや大団地開発の手法である新住宅市街地開発事業や土地区画整理事業等)が,民間宅地開発は,土地区画整理事業や一定の良好な開発を除いては,都市計画的コントロールが不十分なものが多い。

 民間宅地開発が上記の3方向からの意味を獲得していくのに,約20年の歳月を要した。まず第1の宅地造成としての意味が社会的に認知され,規制手段が成立したのは1960年代初頭である。傾斜地における宅地造成ががけ崩れや土石流をもたらすことを防止するために,1960年神戸市は〈傾斜地における土木工事の規制に関する条例〉を生み出し,これがきっかけとなり,61年〈宅地造成等規制法〉が制定された。これに引きつづき64年〈住宅地造成事業に関する法律〉が成立した。前者は傾斜地または悪い土質の地域に限られた単なる災害防止のねらいしかなかったが,後者は,住宅地として必要な道路・広場など宅地開発に伴う居住環境整備のために必要な規制を行い,適用対象規模が1ha以上と比較的まとまった開発に限られたものの,ここにおいて一般の民間宅地開発における〈宅地〉と〈素地〉との区分を明確化し,〈宅地〉を〈都市〉の環境整備の一環として位置づけることになった。

このことをさらに発展させたのが都市計画法(1973)による〈線引き〉と〈開発許可制度〉である。この法律は,都市計画を定める対象となる都市計画区域を指定すること,その区域をさらに市街化区域(すでに市街地を形成している区域,およびおおむね10年以内に優先的に市街化を図るべき区域)と市街化調整区域(市街化を抑制する区域であり,原則として開発行為は20ha以上の計画的な優良な宅地開発に限られる)とに区分した。これを〈線引き〉という。

 この制度趣旨を担保するための〈開発許可制度〉は,市街化区域においては,一定の開発行為(主として建築物の建築等の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更のこと,一般的には1000m2以上の開発規模)について,都道府県知事の許可に係らしめて,必要な都市施設の水準確保を行おうとする制度である。

都市計画法制定に相前後して,急速な乱開発に悩んでいた地方自治体は,国の法の不備を補完・先導する自治体独自の都市づくりのルールとしての宅地開発指導要綱(開発指導要綱と略称することが多い)を制定した。それは1965年川崎市,67年川西市のものが最初であるが,81年には1007(全国の30.7%)の市町村が指導要綱を制定し,社会的実態として広く存在し,定着・運営されている。そのおもな内容は,第1に,居住環境を自治体の地域特性にあわせて一定の水準以上に確保するために,道路,公園,水路,さらに学校,保育所,消防施設等の公共公益施設についての技術基準を定め,法の〈上乗せ〉をしていること,第2に,学校用地,公園緑地,水路,河川整備などの現行制度の不備を補うために一定の開発負担金を徴収する負担基準を定め,法の〈横出し〉をしている。一方,一連の開発規制強化,地価高騰,一戸建住宅への需要圧力の強さ等が相乗的に作用して,ミニ開発(開発単位1000m2未満,敷地規模100m2未満の一戸建建売住宅)が,昭和40年代後半から50年代にかけて急増した。これに対抗して,最近の開発指導要綱の傾向としては,1戸単位のばら建ちまでをも含む規制対象の拡大や敷地の最小限規模の設定などがふえ,自治体の状況に見合ったきめ細かい対応を示している。

 こうして開発指導要綱は,宅地開発における現行法制の不備を正し,新しいルールを創出したこと,開発利益の帰属を是正し,とくに周辺環境条件への〈ただ乗り〉を排除していること,自治体行政の自主的総合化への助走をすすめるといった行政効果をあげている。しかし,その動機が人口抑制,乱開発防止,財政負担軽減という〈緊急避難〉的であった現在までの開発指導要綱は,今日の社会的背景の変化(高度経済成長時代から低成長へ,人口流動の激しい時代から安定した定住環境形成の時代へ)につれ,地域の居住環境を整備することに自覚的責任を負う自治体みずからの創意工夫による要綱の発展的改善が求められてきている。

 以上のように,民間宅地開発をめぐる都市計画的仕組みは,宅地造成の水準確保,基本的都市環境整備との連携等について一定の成果をあげており,他方,地区・街区レベルの住環境の保全・整備・開発については,建築協定に加えて,最近地区計画制度が登場したことによって,新しい段階を迎えつつある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「宅地開発」の意味・わかりやすい解説

宅地開発
たくちかいはつ

都市計画的配慮のもとに,宅地を造成する行為。開発にあたって関連都市との地理的関係や交通・輸送を考慮する点,また,学校,保育所,道路,都市公園,上下水道などの都市としての機能を整備する点が単なる宅地造成と異なる。開発主体は,住宅供給公社都市再生機構などの公的機関と民間があるが,供給量は公的機関によるものが多い。宅地開発の手法としては,区画整理方式と全面買収方式があるが,規模や地域性によって使い分けられる。

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