改訂新版 世界大百科事典 「ナミダタケ」の意味・わかりやすい解説
ナミダタケ (涙茸)
Serpula lacrymans(Wulf.ex Fr.) Schroet.
通風の悪い家屋の床板や土台に生ずる家屋腐朽菌で,担子菌類イドタケ科のキノコ。床板の下面に背着して生じ,子実体の大きさは数cmから数mに及ぶ。表面に多量の水滴をもつためにこの名が与えられた。世界の暖帯から温帯北部にかけて広く分布する。日本ではとくに北海道の家屋にしばしば発生して被害を与える。人類出現以前には針葉樹林内の枯死木に発生して,命脈を保ってきた進化の遅れた種であるが,洋式建造物という好適な環境(過湿,適温および暗黒)を与えられて急激に増殖した。家屋の土台下の土壌中に形成した菌糸束から水を吸収するため,床板や柱は乾燥していても菌糸は生育しうる。このためヨーロッパでは乾腐菌dry rot fungiとも称する。本菌による被害は速やかで新築6ヵ月後には床板が腐朽,破損した例も多い。腐朽材は褐色となる。子実体は腐朽材上にひらたくひろがり,黄褐色,褐色の胞子を大量に散布する。この胞子はアレルギーの原因となる。
執筆者:青島 清雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報