木材の主要成分であるセルロース(繊維素)またはリグニン(木質素)を腐朽分解し、おもな栄養源として生活する菌をいう。木材は陸地上にもっとも大量に蓄積され、しかももっとも分解しにくい有機物の一つである。もし木材を腐朽分解する菌の働きがなかったら、陸地は樹木の死体である木材で埋められることであろう。おもな木材腐朽菌としては、担子菌類サルノコシカケ目(ヒダナシタケ目)のサルノコシカケ科、ウロコタケ科、タバコウロコタケ科などに属するいわゆる硬質菌が多いが、シイタケやナメコ、エノキタケなど、木に生えるマツタケ目の軟質菌も少なくない。これらの菌は、いずれも菌糸を木材組織内に蔓延(まんえん)させながら各種の酵素を分泌し、木材繊維を分解して栄養をとるもので、人工栽培も可能である。
[今関六也]
木材腐朽菌は、主としてセルロースを分解する菌と、主としてリグニンを分解する菌とに分けられる。セルロース分解菌による腐朽材は褐色を呈するため褐色腐朽(褐色腐れ)とよばれ、リグニン分解菌による腐朽材は白っぽいため白色腐朽(白腐れ)とよばれる。腐朽材のなかには、米粒から大豆大の、円形ないし紡錘形の孔(あな)が無数に散在するような特殊な腐れを示すものがある。これは、腐朽が平均して進まず、きわめて局部的に進行したことによるもので、孔腐れとよばれる。これにも褐色孔腐れと白色孔腐れとがある。さらに白色の場合には、孔の内部が空洞の場合と、白い繊維状物が詰まっている場合とがある。白い繊維状物はリグニン質が分解されてセルロースだけが残ったものである。このように、腐朽材の色や形の特色によって、キノコの形成が認められない場合でも、ある程度、腐朽の原因となった菌を推察することができる。なお、腐朽の主役は菌糸であり、キノコは胞子形成の繁殖器官である。
木材腐朽菌のなかには、枯れ木や丸太などを腐らせるだけでなく、生きている木に侵入して材質を腐らせる菌がある。これらを立ち木の材質腐朽(病)菌といい、心材腐朽(病)菌と辺材腐朽(病)菌とに分けられる。また、菌の侵害する位置によって、幹(みき)腐れ病菌、根株(ねかぶ)腐れ病菌、根(ね)腐れ病菌のようにも分けられる。これらの菌による材質腐朽病の発生は木の種類と環境とによって異なるが、いちばん多いのは根株心材腐朽病である。これは、根にできた傷口から菌が侵入し、根から幹の心材部を腐らせていくものである。この病気にかかっても、木は枯れないが、風で折れやすくなるので、台風に襲われると罹病(りびょう)木だけが根元から折れ、結局は枯れることとなる。根株心材腐朽病の被害率の高い森林では、集団的な風折れを生じて、森林崩壊の主要原因となる。根株腐朽病は、都市の公園木、街路樹、庭木などでも珍しくない。寺や神社にみられる老大木で、その根元が空洞になっていたりするのは、この病気に冒されたためである。内部に空洞ができても枯れないのは、樹皮と辺材部が生きており、さいわいに風折れを免れているからである。一般に木の根際(ねぎわ)部からキノコが発生している場合は、根株腐朽菌に冒されていることが多いため、風折れを警戒する必要がある。
木材腐朽菌は森林を破壊し、また、木材を無価値のものにするが、一方では木材という分解しにくい有機物を分解して森林における物質循環を円滑にし、さらに森林を清掃して次代の森林に生育の場を提供する。樹木のなかには、腐朽材の上でなければ幼樹が育たない木(エゾマツなど)もあるほどである。したがって、木材腐朽菌の存在は、子々孫々と続く森林の永遠の生命の維持に欠くことのできない自然の摂理ともいえる。
[今関六也]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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