ナワ(読み)なわ(英語表記)Nahua

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナワ」の意味・わかりやすい解説

ナワ
なわ
Nahua

メキシコの中央高原とその周辺、すなわちメキシコ州、プエブラ州、ゲレロ州、イダルゴ州、ベラクルス州などに住み、ユト・アステカ語族に属するナワトル語を話す集団。人口は約100万人(1960)という推定がなされているが、混血が進行し、またバイリンガル(二言語併用者)も増えているので、正確な数値はわからない。人種的には、モンゴロイドのうちの南太平洋インディアンに属し、肌は黄褐色、体毛は少なく、二重瞼(まぶた)が多く、中鼻で、低身長であるが、体の均整はとれている。歴史的には、メキシコの北西部から数度にわたり(なかでも800年ころと12世紀以降)現メキシコ市のあるメキシコ盆地付近へ移住してきた人々で、トルテカ王国(10~12世紀)やアステカ王国(1372ころ~1521)を築いたことで有名である。コルテス征服(1521)されて以後、悲惨な境遇に置かれた。トウモロコシ(トルティヤ――トウモロコシを挽(ひ)いたパン――として食べる)、豆、トウガラシ(チレ)を主に栽培する農耕民で、今日では都市から離れた村落に居住する。「近代化」の度合いや外部世界との経済的結び付きは、都市への交通の便などの要因により異なる。大都市に職を求めて移り住む人々も、生まれ故郷との縁はなかなか断ち切れない。伝統的には、カルプルリ(氏族一種)という共同体に組織されていたが、現在では、土地(畑)は共有が原則であるものの、実質的には、各家族に割り当てられ息子たちに受け継がれてゆく。宗教面では、カトリック化しているが、土着信仰との混交もみられる。太古から各種の薬草に関する知識が豊富で、専門の祈祷師(きとうし)がおり、彼らの医術は伝統的な呪術(じゅじゅつ)ともかかわりが深いが、西洋医学にかわりつつある。メキシコの先住民のなかでもナワはとくに都会化の波にさらされ、高等教育を受けるにもスペイン語に頼らざるをえないので、多くの地方でナワトル語の純粋さはしだいに失われ、「メキシコ国民」として統合されてゆく過程にある。

[小池佑二]

『スーステル著、狩野千秋訳『アステカ文明』(白水社・文庫クセジュ)』『黒沼ユリ子著『メキシコからの手紙』(岩波新書)』

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