日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニューカム」の意味・わかりやすい解説
ニューカム
にゅーかむ
Simon Newcomb
(1835―1909)
カナダ生まれのアメリカの天文学者。天体暦の開発者。1853年アメリカに移り、数学教師や航海暦局計算係を務め、1858年ハーバード大学理学部に入学、卒業とともにアメリカ海軍天文台員および海軍兵学校の数学教授。1877年航海暦局に転入し1897年まで編暦局長、1884年ジョンズ・ホプキンズ大学教授を兼任し、数学・天文学を講義。
大学入学以前に独学でラプラスの名著『天体力学』を勉強し、海軍天文台員時代に26インチ(65センチメートル)鏡を用いて天体位置決定の研究に従事。航海暦局長時代にかねて意図していた月および惑星の運動の綿密な計算を企画実施した。このため天体力学の理論を深め、天文航法の精度を高めた。1896年パリで開催の国際天文学会において、航海暦計算に万国同一の天文定数を用いることを提唱し、その定数として前年ニューカムが論文発表した値を採用することが決議された。またアメリカ数学会誌の編集、アメリカ天文学会の創設に尽力した。主業績は天文基礎定数を体系的に決定し、諸惑星の位置推算表を作成したことである。とくに月のハンセン運行表と視運動との差を周期項と偶発項に分析し、その原因は地球自転の変動にあることを解明し、暦表時制定の基礎を与えた。アメリカの7大学、ヨーロッパの10大学の名誉教授、45の外国学会の名誉会員に推され、イギリス王立天文協会から金賞を受けた。またヒルGeorge William Hill(1838―1914)やブラウンら、優れた天体力学者を育成した。
[島村福太郎]