社会心理学および社会学の領域を中心として用いられる基本的用語の一つ。照準集団ともよばれる。所属集団と準拠集団という視点から、社会的現実、私たちが生きている日常的世界、生活する人間、人間の態度や行動が考察されるのである。準拠集団についての着想や発想は、W・ジェームズ、クーリー、サムナー、ミードらの場合にさまざまな形でみられたが、実態調査の場面や社会心理学のパースペクティブ(視野)で準拠集団についての考察が相次いで行われ、準拠集団論の展開がみられたのは、1940年代のアメリカにおいてであった。そして第二次世界大戦後になって集団論として確立され、さらに社会心理学の領域のみならず、産業心理学、臨床心理学の分野においても大きな影響を与えているといえよう。すなわち準拠集団は、ただ単に集団論の場面で問題とされるだけではなく、態度、社会的行為、役割、社会化、文化変容、同化、社会移動、自己についてのイメージや評価、アイデンティティ、マージナル・マンなどのそれぞれの場面において注目されているのである。
[山岸 健]
私たちの物の見方や考え方、行動の仕方、態度形成に影響を与えてきた、また影響を与えつつある集団がある。思考や行動、あるいは評価や判断などにおいて、私たちが自己をある集団に帰属させたり、ある集団のメンバーに自己を同一化させたりする場合がある。また、私たちの言動にあたって、自分がある集団のメンバーであればと願望したり、ある集団のメンバーであるかのように行動したりする集団がある。さらに、私たちが生きている日常的な社会的世界において、自分の地位やポジションを評価したり判断したりする場合、比較の尺度や基準となるような集団がある。以上と関連するところがあるが、日常生活を営む私たちに準拠枠(フレーム・オブ・レファレンス)やパースペクティブなどを与えてくれるような集団がある。こうした集団が準拠集団とよばれるが、研究者の視点や立場、調査研究の場面などの違いによって、準拠集団についてはさまざまな説明が行われてきた。今日、バーガーは、人間の内における社会society in manについて論じたとき、役割理論、知識社会学という二つのアプローチの結び目において準拠集団論をとらえ、私たちは準拠集団によって私たちに提供されるモデルと私たち自身を絶えず比較することができる、という。
[山岸 健]
準拠集団ということばは、1942年アメリカの社会心理学者ハイマンHerbert H. Hyman(1918―1985)の論文「地位の心理学」において初めて使用された。ハイマンのみるところでは、地位と態度、行動、社会的パースペクティブなどとの間には、さまざまな関連性があるのであり、この論文で扱われる「主観的地位」は、ある人が他の諸個人との関係においてとらえた自分自身のポジションについての見解をさすのであった。ハイマンの場合には、インタビューを受ける主体が自分自身を人々のある集団と比較する、そうした集団が準拠集団とよばれたのである。そうした人々は彼が知っている実際の人々であるのかどうか? 自分と比較した場合、そうした人々の地位の高低は? アメリカの社会心理学者ケリーHarold H. Kelley(1921―2003)は、態度決定の場面での準拠集団の二つの機能として、規範的機能と比較の機能をあげているが、ハイマンの場合は後者の機能に言及したものといえるのである。
[山岸 健]
私たちが実際に所属している集団の準拠枠で行動している場合があるが、行動や態度や評価の決定や方向づけに当って、所属集団がそのまま準拠集団になっていることもあれば、そうでない場合もある。マートンらのいうところでは、準拠集団はほとんど無数にあり、所属集団も非所属集団も態度・評価・行動を形成する準拠点となることができるのである。そして非所属集団への志向という事実を中心にした問題こそ準拠集団論の特異な関心対象なのである。マートンらの視点では、いかなる条件の場合に自分たちの所属する集団が自己評価と態度形成のための準拠枠となり、いかなる条件の場合に非所属集団が重要な準拠枠となるのか、ということが準拠集団行動論の発展にとって中心的意義を有する問題なのである。パースペクティブとしての準拠集団について論じた人にアメリカのシブタニTamotsu Shibutani(1920―2004)がいる。準拠集団とは、あるなんらかの集団の見地・視野が行為者にとって自分の知覚野の組織づけにおいて準拠枠として用いられるところの集団をさすのである。
社会学には内集団と外集団(サムナー)、プライマリー・グループ(第一次集団、クーリー)などいくつかの集団論がみられるが、準拠集団論、所属集団と準拠集団という視点とアプローチは、社会学と社会心理学の両分野にわたり、理論と応用両面においてとくに注目される集団論である。生活態度と日常的な行動や行為、セルフ・イメージやアイデンティティ(自己同一性・存在証明)などの理解に当って準拠集団論は、有力な手がかり、視点となるのである。
[山岸 健]
『M・シェリフ、C・W・シェリフ著、重松俊明監訳『準拠集団――青少年の同調と逸脱』(1968・黎明書房)』▽『C・H・クーリー著、大橋幸・菊池美代志訳『現代社会学大系4 社会組織論』(1970・青木書店)』▽『H・H・ハイマン著、舘逸雄監訳、七森勝志訳『地位の心理学』(1992・巌松堂出版)』▽『R・K・マートン著、森東吾ほか訳『社会理論と社会構造』(2002・みすず書房)』▽『G・H・ミード著、稲葉三千男ほか訳『現代社会大系10 精神・自我・社会』復刻版(2005・青木書店)』▽『W・G・サムナー著、青柳清孝ほか訳『現代社会大系3 フォークウェイズ』復刻版(2005・青木書店)』▽『P・L・バーガー著、水野節夫ほか訳『社会学への招待』(ちくま学芸文庫)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし世間は,本人の行動にとって一種の基準枠ともなる。いわば,準拠集団sekaidaihyakka_reference groupとしての性格をも備えている。〈世間を騒がせた〉だけで公職を辞したり,犯罪者の家族が〈世間に申しわけない〉とか〈世間に顔向けができない〉と詫び恥じるのは,世間が行為の是非の判定者として機能するからで,そこから,本人は〈世間体〉を強く意識するにいたる。…
※「準拠集団」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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