ニュートリノ振動(読み)ニュートリノシンドウ

デジタル大辞泉 「ニュートリノ振動」の意味・読み・例文・類語

ニュートリノ‐しんどう【ニュートリノ振動】

ニュートリノ質量をもつことで、ニュートリノの種類電子ニュートリノμニュートリノτニュートリノ)が変わる現象。昭和37年(1962)、牧二郎、中川昌美、坂田昌一が提唱した。平成10年(1998)、梶田隆章らの観測により、宇宙素粒子観測装置スーパーカミオカンデで大気ニュートリノ振動が検出され、質量をもつことが確実となった。太陽から飛来するニュートリノの数が核融合理論と一致しないという太陽ニュートリノ問題もこの現象により説明することができる。

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化学辞典 第2版 「ニュートリノ振動」の解説

ニュートリノ振動
ニュートリノシンドウ
neutrino oscillation

ニュートリノには,νeνμντ の3種類があるが,ニュートリノに質量があるとき,種類の違うニュートリノの質量固有状態の混在から,その間の変換にみられる量子力学的振動現象をいう.太陽から飛来するニュートリノ数が理論値より大幅に低いことから,この現象が原因として推測された.1998年,スーパーカミオカンデで宇宙線起源の大気ニュートリノ中の νμντ に変化(振動)していることを観測,ついで2001年に,太陽ニュートリノについても,νeνμντ に変化していることをスーパーカミオカンデとカナダのSNO観測所の測定から確認した.2000年に開始した,茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構の陽子加速器を用いて発生させた νμ を,250 km 離れたスーパーカミオカンデに向かって打ち出して観測するK2K実験でも,νμ の振動が観測された.さらに,同じ神岡鉱山に設置されたカムランド(KamLAND)検出装置で,発電用原子炉からの反 νe の振動が確認され,この現象が実際に起こっていることと,ニュートリノに質量のあることは疑いのない事実となった.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニュートリノ振動」の意味・わかりやすい解説

ニュートリノ振動
ニュートリノしんどう
neutrino oscillation

ニュートリノが生成され空間内を移動しているときに,その種類がたえず入れ替わっているという現象。かつて質量がないと考えられていたニュートリノに微小な質量があることを示している。ニュートリノはその発生源となる粒子に対応して,電子ニュートリノ(νe),μニュートリノ(νμ),τニュートリノ(ντ)に分類されるが,この発生メカニズムによる分類と質量による分類にずれがあるために起こる現象である。理論的には 1962年に牧二郎らによって予測されていたが,1998年以降実験的に明らかにされた。これまで,太陽からのニュートリノの地球での観測,大気中で宇宙線により発生するニュートリノの地球の反対側での観測,原子炉で発生するニュートリノの観測,加速器で発生するニュートリノの,距離が大きく異なる 2ヵ所での観測などがなされた。日本のカミオカンデ,カムランド,高エネルギー加速器研究機構 KEKなどで行なわれた実験の寄与も大きい。太陽で発生している種類のニュートリノνe地上での観測量がなぜ予想の 3分の1程度なのかという長年の疑問も,ニュートリノ振動によって解決した。

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