精選版 日本国語大辞典 「宇宙線」の意味・読み・例文・類語
うちゅう‐せん ウチウ‥【宇宙線】
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地球外起源の高エネルギー放射線。地球の大気に突入する以前の宇宙線を一次宇宙線、それが地球の大気や土で発生するものを二次宇宙線という。
[早川幸男・高原文郎]
19世紀末に放射能が発見されてまもなく、厚い壁で囲んでもなくならない放射能の存在が認められた。放射能は地上から高く昇ってもあまり弱まらず、気球を使って観測すると、1キロメートル以上の高度では高さとともに強くなることがわかった。
1912年にこの観測に成功したV・ヘスは、この放射能が高空からくる透過性の高い放射線によると結論した。これが宇宙線の発見である。1927年、計数管や霧箱が宇宙線の観測に用いられ、地上に降り注ぐ宇宙線の大部分が高エネルギー荷電粒子であることが判明した。また、地磁気緯度が高くなるとともに宇宙線強度が増加することが観測され、地球に入射する一次宇宙線も地磁気で曲げられる荷電粒子であることが確かめられた。さらに、東西方向の強度の差から、その電荷の符号が正であると結論された。
一次宇宙線は地球大気と衝突して二次宇宙線を発生する。霧箱で観測された宇宙線の飛跡を研究して、1932年に陽電子、1937年にμ粒子(ミューオンともよばれる)が発見された。宇宙線諸成分のエネルギーは、当時人工的に到達できたエネルギーよりはるかに高く、高エネルギー相互作用と素粒子を研究する有力な手段を提供した。
発見直後、μ粒子は湯川秀樹(ひでき)が予言した中間子であると思われたが、すぐに両者の差異が認められるようになった。1942年(昭和17)坂田昌一(しょういち)と谷川安孝(やすたか)(1916―1987)は、核力を媒介する中間子とμ粒子は別のものであると唱えた。この説は、1947年にC・F・パウエルらによってμ粒子の崩壊が観測されて検証された。そのころから、さらに重い中間子や、核子より重い重核子が次々と発見され、素粒子の多様性が認識された。これらを理解するため、1953年(昭和28)に素粒子を特徴づける量子数ストレンジネスが中野董夫(ただお)(1926―2004)、西島和彦らによって導入された。
一方、一次宇宙線については、1937年ごろから宇宙線強度と地磁気の変動の相関がみいだされ、1942年には太陽からの宇宙線発生が発見された。これらの現象の研究から、乱れた磁場が太陽風に伴って惑星間空間に放出されることが明らかにされた。
宇宙線の大部分が銀河系起源で、それが星間磁場で捕捉(ほそく)され、かつ加速されるという説が、1949年にE・フェルミによって提唱された。また1952年、宇宙線が星間物質と衝突してπ(パイ)中間子を発生し、その崩壊によって電子やγ(ガンマ)線をつくることが早川幸男(さちお)らによって予言された。1953年、高エネルギー電子が星間磁場中を運動すると電波を放射することがシュクロフスキーI. S. Shklovsky(1916―1985)やギンツブルクによって研究され、銀河電波放射の起源が解明された。
[早川幸男・高原文郎]
主成分は陽子およびヘリウムなどの原子核であり、その組成はほぼ太陽組成と同じである。数にして1%程度の電子も含まれており、陽電子も電子の1割程度存在している。また1990年代後半には、精密な気球実験により反陽子の存在も確認された。陽電子や反陽子は、宇宙線が銀河系空間を伝播(でんぱ)する際に、星間物質との衝突により生成されるものと考えられる。星間物質との衝突で生成される銀河γ線は、1970年代に検出されている。さらに、1990年代から2000年代にかけて、パルサーや活動銀河、超新星残骸などの天体起源の高エネルギーγ線が発見され、宇宙線の研究と天文学の研究との関係が深まっている。
陽子は地球の磁場によって曲げられるため、あるエネルギー以下のものは地球に入射できない。重い原子核に対しては、核子当りの限界運動量が約2分の1になる。100MeV(メガ電子ボルト。1MeV=106eV)以下の成分は、おもに太陽風内の衝撃波で加速されたものである。これらの粒子強度は太陽活動によって変動する。太陽活動が激しくなると、太陽から放出される磁場のために宇宙線が押しやられ、活動極大時には1GeV(ギガ電子ボルト。1GeV=109eV)以下の強度が約半分になる。
エネルギーが高くなると、スペクトルはエネルギーEの「べき関数」で表される。「べき指数」は、109eVから3×1015eV付近までは-2.7、3×1015eVから3×1018eVまでは-3.1程度である。3×1018eVを超えると、ふたたび指数は-2.5程度になる。これらのスペクトルの折れ曲がりは「knee(ひざ)」「ankle(くるぶし)」とよばれている。エネルギーが3×1018eVより高い宇宙線は銀河系の磁場によって閉じ込められなくなるので、それらは銀河系外起源と考えられる。また、陽子は宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の光子と衝突してエネルギーを失うため、6×1019eV以上のエネルギーの宇宙線は宇宙全体からではなく、せいぜい50Mpc(メガパーセク。1Mpc=106pc、1pc=3.26光年)以内の近傍銀河の領域で生成されたものだけが地球に到達しうる。そのためエネルギースペクトルに切断が現れると予想された。1980年代以降、複数の大型の宇宙線空気シャワー観測装置による観測が進められており、この予想に近いエネルギースペクトルが測定されている。
宇宙線源についてはいろいろ考えられているが、超新星のような強力な爆発が有力である。急激なエネルギーの解放によって衝撃波が発生し、荷電粒子がその波面に遭遇すると加速される。フェルミが提案した統計的粒子加速機構を衝撃波に適用した理論がもっとも有力なものと考えられている。超新星爆発のほかに、強い星風をつくる星、強い電磁波を放射するパルサー、高速ジェットを放出する活動銀河核、γ線バーストなどが宇宙線源の有力候補である。
[早川幸男・高原文郎]
一次宇宙線の主成分である陽子やα(アルファ)粒子は、空気中の窒素や酸素の原子核と衝突して核破壊をおこす。これによって、原子核を構成する陽子、中性子、軽い原子核が飛び散ると同時に、入射エネルギーが十分高ければ中間子が発生する。発生する中間子の大部分はπ(パイ)中間子で、K中間子の個数はπの約20%である。πの3分の2は電荷をもち(π±)、3分の1は中性(π0)である。K中間子のうち正電荷(K+)と中性(K0)のものがほぼ等量で、負電荷(K-)のものは少ない。これらの中間子は不安定で、
π±→μ±+νμ(μ),π0→2γ
K±→μ++νμ,K0→π++π-
などの過程で崩壊する。崩壊の平均寿命および前記以外の崩壊過程は「素粒子」の項を参照されたい。平均寿命τ0は静止粒子に対するもので、質量mの粒子が全エネルギーEで走っている場合には、相対論の効果によって平均寿命がτ=(E/mc2)τ0に延びる。そのため102GeV以上になると、崩壊する前に空気核と衝突する確率が高くなる。
崩壊で生じたμ±はμ粒子を表し、νμ(μ)はμに伴うニュートリノ(反ニュートリノ)を表す。π±の崩壊では、親のエネルギーが約3対1の割合で二つの子に与えられる。π0はただちに2個のγ線に崩壊する。
μ±は原子核と衝突する確率が小さく、ほとんど電離によってエネルギーを失う。エネルギーの低いμ±はμ±→e±+νe(e)+
μ(νμ)の過程で崩壊する。e±は正負電荷の電子を表し、νe(
e)は電子に伴うニュートリノ(反ニュートリノ)である。スーパーカミオカンデ実験により、μニュートリノの量が理論値の半分程度しかないことが発見された。これはニュートリノがわずかな質量を有しているときにおこるニュートリノ振動によるものと考えられている。
γ線は空気中の原子と衝突して電子・陽電子対をつくる。これらの電子・陽電子は原子と衝突して原子核の電場で曲げられる際にγ線を出す。このγ線がまた電子・陽電子対をつくる。このようにして電子・陽電子とγ線が増殖し、電子・陽電子の電離によるエネルギー損失が勝るようになると増殖がやむ。このように電子・陽電子とγ線とは互いに移り変わり、かつ一体になっているので、これらをまとめて電子成分という。増殖過程は原子番号の高い物質中で頻繁におこり、入射電子成分のエネルギーは速やかに細分されるので、鉛などの重い物質中では吸収が激しい。これに比べてμ±は質量が大きいため電場で曲げられにくく、γ線を出す確率が小さい。そのためエネルギーが高いと物質を貫通しやすくなる。ニュートリノはほとんど自由に物質を貫通するので、これを検知するためには、スーパーカミオカンデなどの地下に置かれた大型観測装置が必要となる。
核子が原子核と衝突する際、約半分のエネルギーを中間子などの二次粒子に与える。生き残った核子や発生した核子、中間子は原子核と衝突する。このように核子、π、Kは一体となって増殖するので、これらをまとめて核成分とよぶ。核成分もエネルギーが細分されて低くなると増殖能力を失って吸収される。
[早川幸男・高原文郎]
非常に高いエネルギーの核子が原子核と衝突すると、多数の中間子を発生する。そのため核成分は激しく増殖する。核成分から生じたπ0の崩壊によるγ線も増殖によって多くの電子成分をつくる。こうして1個の一次宇宙線が各種の粒子の集合となり、シャワー状に大気中を降る。これを空気シャワーとよぶ。入射エネルギーをE(GeV)とすれば、極大粒子数は約0.5Eである。
発生する高エネルギーμ±は地下深くまで到達する。エネルギーE(<103GeV)のμ±は柱密度(μ±の進行方向に沿った空気の総量を表す線密度)約5×102Egcm-2の深さまで達しうる。E(>102GeV)ではγ線や電子対発生によるエネルギー損失が無視できなくなり、5×105gcm-2より深くなると、ニュートリノのつくるμ±がおもな成分になる。
[早川幸男・高原文郎]
『湯川秀樹・坂田昌一著『原子核及び宇宙線の理論』(1942・岩波書店)』▽『湯川秀樹他編『宇宙線及び中間子論』(1955・共立出版)』▽『武谷三男編『宇宙線研究』(1970・岩波書店)』▽『早川幸男著『宇宙線――自然探求の歩み』(1972・筑摩書房)』▽『小田稔著『宇宙線』改訂版(1972・裳華房)』▽『長谷川博一著『宇宙線の謎――発生から消滅までの驚異を追う』(1979・講談社)』▽『小田稔・西村純・桜井邦朋編『宇宙線物理学』(1983・朝倉書店)』▽『桜井邦朋著『宇宙線はどこで生まれたか』(1985・共立出版)』▽『桜井邦朋著『現代天文学が明かす宇宙の姿』(1989・共立出版)』▽『桜井邦朋編『高エネルギー宇宙物理学――宇宙の高エネルギー現象を探る』(1990・朝倉書店)』▽『西村純編『宇宙放射線』(1986・共立出版)』▽『吉森正人著『ガンマ線で見る宇宙』(1988・地人書館)』▽『早川幸男・佐藤文隆・松本敏雄編『現代の宇宙論』(1988・名古屋大学出版会)』▽『T・K・ガイサー著、小早川恵三訳『素粒子と宇宙物理』(1997・丸善)』▽『東京大学宇宙線研究所編・刊『高エネルギー宇宙の総合的理解――新技術で切り開く宇宙線物理』(2002)』▽『小山勝二・嶺重慎編『ブラックホールと高エネルギー現象』シリーズ現代の天文学8(2007・日本評論社)』▽『井上一・小山勝二・高橋忠幸・水本好彦編『宇宙の観測〈3〉――高エネルギー天文学』シリーズ現代の天文学17(2008・日本評論社)』▽『朝永振一郎編『宇宙線の話』(岩波新書)』▽『佐藤文隆著『宇宙物理への道――宇宙線・ブラックホール・ビッグバン』(岩波ジュニア新書)』
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地球外から大気に飛び込んでくる高エネルギーの放射線を一次宇宙線,大気との衝突で生じるイオン化放射線を二次宇宙線という.一次宇宙線はほとんど裸の陽子で,それを100とすると,10がヘリウム核,1が電子とそのほかの核,0.01がγ線である.その起源は超新星の爆発などからきたもので,太陽からのイオン化放射線はごくわずかであるとされている.二次宇宙線はおもに,高エネルギー陽子と大気との相互作用で生じる短寿命のパイ中間子,ミューオン,ニュートリノ,および一次宇宙線の制動放射によるγ線である.二次宇宙線の強度が大きいのは地上15~20 km で,地表では1 cm2 当たり毎秒1個程度である.
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…実際の人工衛星の飛行高度は,低いものでもその近地点高度は150km程度だが,熱圏を飛行する場合には,同様に大気による抗力を受け,また大気の流れの影響も受けるため,徐々にエネルギーを失っていき,最後には濃い大気に突入する。
[宇宙空間での人間活動と宇宙環境]
宇宙空間での人間活動に関する環境を考えるとき,人間の永久居住は20年または30年後の研究課題であるから,太陽活動の変動までを考慮する必要は当分なく,現実的な問題となるのは紫外線,X線,宇宙線,宇宙塵,無重量状態などである。紫外線は生物の皮膚に紅斑を生じさせたり結膜炎を発生させる原因となり,有人宇宙船の飛行高度では人間の皮膚が太陽からの紫外線にさらされると,地上の10~50倍の速度で紅斑ができるといわれるが,宇宙船および宇宙服の窓材料を適当に選べば,紫外線を宇宙船内の人間まで通過させなくすることは容易である。…
…放射線に被曝すると放射線障害の発生確率が増大すると考えられることから,環境放射線のレベルを低く保つことは重要である。放射線被曝
[自然の環境放射線]
自然放射線には宇宙線と自然放射性物質からの放射線がある。宇宙線とは,地球の外部で発生する高エネルギーの放射線と,これが大気中に侵入すると大気の核と相互作用をして発生する二次粒子や電離放射線の総称であり,人々はこれに被曝する。…
…12年から15年にかけては,光電効果の実験を行い,アインシュタインの光量子仮説中の局在化した放射エネルギーという概念に実験的基礎を与えようとしたが,この実験によってプランク定数の値も約0.5%の精度内で得ることができた。またカリフォルニア工科大学に移ってからは宇宙線の研究にも取り組み,V.F.ヘスが発見した高い高度で増加する放射線の起源が地球にはないことを明らかにし,〈宇宙線〉の名称を提案(1925)した。その後も宇宙線研究で指導的な役割を果たし,陽電子を発見したC.D.アンダーソンも彼の弟子の一人であった。…
※「宇宙線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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