物理学者、天文学者。埼玉県東松山市出身。1981年(昭和56)埼玉大学理学部物理学科卒業後、東京大学大学院理学系研究科に進学。小柴昌俊(こしばまさとし)研究室に入り、小柴と兄弟子の戸塚洋二のもとで宇宙線の研究を行う。1983年同研究科修了、1986年東大で理学博士となる。同年東大付属素粒子物理国際研究センター助手となり素粒子の一つであるニュートリノの研究を開始。このころから岐阜県神岡鉱山の地下に建設された素粒子観測装置「カミオカンデ」(1996年以降は後継施設「スーパーカミオカンデ」が引継ぎ)で観測を始める。その後、東大宇宙線研究所助手、助教授を経て、1999年(平成11)同研究所教授。2008年(平成20)より同研究所長。
ニュートリノは、ほかの物質とほとんど反応せず、地球も通り抜けるもので、人間も1秒間に100兆個ほど浴びているとされている。また、ニュートリノには三つの型があるが、いずれも重さがないとみなされていた。もし質量があれば「振動」という現象が起こるはずだと理論的に予想されてもいた。当時東大宇宙線研究所長であった戸塚と助教授であった梶田を中心とした研究チームは、1996年より神岡鉱山の地下1000メートルに純水5万トンを蓄え1万1200本の光電子増倍管を取り付けたスーパーカミオカンデで、宇宙から降り注ぐニュートリノを観測。地球の裏側でできて地球を貫通してきたμ(ミュー)型の大気ニュートリノの数は、神岡上空でできたものの半分であることを突き止め、1998年に国際会議で発表した。同じ数だけ観測されるはずのものが半分になっているのは、地球の裏側からくる間にμ型から他の型に「振動」によって変身している証拠であるとし、ニュートリノに質量があることを世界で初めて実証した。
1999年仁科(にしな)記念賞、2010年戸塚洋二賞、2012年日本学士院賞を受賞。2015年「素粒子ニュートリノが質量をもつことを示すニュートリノ振動の発見」の業績で、カナダのクイーンズ大学名誉教授のアーサー・マクドナルドとノーベル物理学賞を共同受賞した。2015年文化功労者、文化勲章を受章。
[馬場錬成 2016年5月19日]
『梶田隆章著『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』(2015・平凡社)』▽『戸塚洋二・梶田隆章著『地底から宇宙をさぐる――ニュートリノ質量が発見されるまで』増補新版(2016・岩波書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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