改訂新版 世界大百科事典 「ヌバ族」の意味・わかりやすい解説
ヌバ族 (ヌバぞく)
Nuba
アフリカ北東部,スーダン共和国中部のコルドファン地方に住み,コルドファン語派に属する諸言語を話す民族。コルドファン語派にはカトラ,コアリブ,タゲリ,タロディ,トゥムトゥムの五つの下位語群が含まれ,総人口は約50万といわれるが,文化的には互いにそれほど異なってはいない。生活地域はヌバ丘陵といわれる山がちな環境で,ナイル峡谷に沿った人の移動に伴う文化の変容の影響をあまり受けずに,独自の文化を保持してきている。経済的には,基本的にはシコクビエ,モロコシ,トウモロコシの農耕を行い,ゴマ,オクラ,メロン,ヒョウタン,ワタ,タバコなども作っている。平地部では牛,ヤギ,羊,鶏,少数の馬やロバ,そして豚を飼っている。牛,ヤギ,羊の放牧や搾乳は男性の仕事で,女性は豚や鶏の世話をする。男女ともに農耕に従事するが,耕作地の開墾や集落から離れた耕地の作業は男性が行い,女性は集落周辺の畑を耕す。すべてのヌバ族の出自集団は単系であるが,父系に従う集団と母系の集団とがある。言語や地理的な分布から,ヌバ族はもともとは母系であり,父系への移行は他部族との接触によって最近もたらされたと考えられている。原型に近いとされる集団では,花嫁代償(婚資)の量が少なくて婚前の労働奉仕が義務づけられており,また複婚はまれである。
彼らは,肉体的なたくましさに高い価値を置いている。若い男性の間で行われるレスリングは,娯楽であるとともに精神生活から切り離せない競技である。競技者は全身に灰を塗って戦う。勝者に与えられるアカシアの枝は,焼かれて灰とされて角の中に蓄えられ,男が死んだ後には,遺体の埋葬とは別にその灰を入れた角のための墓がつくられる。レスリング以外の競技には槍と盾,あるいは重い棒と盾とを用いる試合,そして右腕にはめたシンチュウ製の大きな腕輪で戦う試合があり,人の精力的な力は社会の活性を保持する源であるとして尊ばれている。
執筆者:太田 至
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報