ネズッポ(読み)ねずっぽ(その他表記)dragonet

翻訳|dragonet

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネズッポ」の意味・わかりやすい解説

ネズッポ
ねずっぽ / 鼠坊
dragonet
[学] Callionymidae

硬骨魚綱スズキ目ネズッポ科の海水魚の総称。世界中の熱帯から温帯まで分布し、日本では北海道南部から琉球(りゅうきゅう)諸島まで分布する。沿岸から水深200メートル前後の大陸棚縁辺部までの砂泥底にすむ。全長は3センチメートル余りで成熟するものから20センチメートルに達する種類までさまざまである。体は上下に扁平(へんぺい)で細長い。一見、コチ類(カジカ目コチ科)に似ているが、体に鱗(うろこ)がないことと、口が小さく、前下方に突出することで容易に区別される。体表面に粘液を多量に分泌し、手に持つとぬるぬるする。鰓孔(さいこう)は小さくて背方にあり、前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)(えらぶたを構成する骨の一つ)に強い棘(とげ)がある。大きな胸びれ腹びれを使って海底を滑るように泳ぐ。老幼雌雄ひれの形や斑紋(はんもん)が異なる。一般に雄では成長すると背びれ、臀(しり)びれ、尾びれが大きく、あるいは長くなり、斑紋が美しくなる。体の背中は黄褐色で大理石様の斑紋があり、海底の砂の色とよく似ている。

 多毛類(ゴカイの仲間)、ヨコエビ類などの底生小動物を捕食して生活する。産卵期には、雄は背びれや臀びれを立てて、雌を誘い、ペア(つがい)が成立すると、雄と雌はまるで手を取り合うように互いの腹びれの先端を重ね、体を寄せ合って上昇し放卵放精をする。産卵期は種類によって異なるが、春から秋までの時期のいずれかである。卵には特徴的な亀甲(きっこう)模様があり、ほかの魚種の卵と容易に区別される。

 世界では19属130種余りが知られ、日本には13属29種がいる。沿岸の底引網、釣りなどでごく普通にとれるので、日本各地でいろいろな地方名がある。たとえば、ノドクサリ(高知、大阪地方)、メゴチ(東京、福岡地方)などである。ネズッポといえばとくにヌメリゴチRepomucenus lunatusをさすこともある。体の粘液を落とすため料理に手間がかかるが、肉は白身でよくしまり、煮つけ、てんぷらにしておいしい。

[中坊徹次]


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改訂新版 世界大百科事典 「ネズッポ」の意味・わかりやすい解説

ネズッポ

スズキ目ネズッポ科の海産魚の総称,またはそのうちの1種を指す。ネズッポCallionymus lunatusは日本各地の沿岸でごくふつうに見られる小型魚で,全長20cmくらい。鹿児島でゴツババ,シックイ,高知,大阪でノドクサリ,福岡でメゴチ,小名浜でニガジロと呼ばれるなど,地方名も多い。別名のヌメリゴチ,浜名湖でのネバリゴチ,富山県新湊のベトゴチなどの名称は,皮膚から多量の粘液を出しぬるぬるすることによる。

 ネズッポ類Callionymidaeはいずれも沿岸の砂泥底にすみ,小型の甲殻類,多毛類などを食べている。体は頭部が上下からつぶされた平らな形をしており,ふつう海底についているが,砂中に潜る習性はない。雌雄で体色などが異なるものが多く,ネズッポでは,雄はしりびれ全体が黒く,背びれの第1棘(きよく)が糸状に延長するが,雌ではしりびれの縁辺部が白く,背びれ第1棘が延長しない。また成熟した雄には明りょうな生殖突起がある。産卵にあたっては,雌雄各1尾で特定の行動をとるといわれている。本種を含め,ネズッポ科の一部は底引網,刺網などにより漁獲され,てんぷらの材料として利用される。また,キス釣りやハゼ釣りで混獲されるが,えらぶたの後縁に大きく,鋭いとげをもつため,刺されないように注意する必要がある。
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百科事典マイペディア 「ネズッポ」の意味・わかりやすい解説

ネズッポ

ネズッポ科の魚の一群の総称。ネズッポ(別名ネズミゴチ)が最も普通で,日本各地の沿岸に多い。地方名が多く,ノドクサリ,ナメラゴチ,テンコチ,メバゴチなどとも。全長20cmくらい。雄では第1背びれの周辺部,しりびれの下半が黒色。雌は第1背びれの黒斑が顕著。皮膚から多量の粘液をだし,ぬるぬるする。底引網などで漁獲され,てんぷら材料などにされる。またキスやハゼと一緒に釣れるが,えらぶたの後縁に鋭いとげがあるので要注意。日本付近にはほかに,アイメノドクサリ,トビヌメリなど。
→関連項目コチ

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世界大百科事典(旧版)内のネズッポの言及

【メゴチ】より

…カサゴ目コチ科の1種メゴチSuggrundus meerdervoorti(イラスト)を指す場合と,ウバウオ目ネズッポ科魚類の総称として用いられることがある。釣人の間で使われる場合は,ほとんど後者を指す。…

※「ネズッポ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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