日本大百科全書(ニッポニカ) 「ねずみ講禁止法」の意味・わかりやすい解説
ねずみ講禁止法
ねずみこうきんしほう
正式名称は「無限連鎖講の防止に関する法律」。昭和53年法律第101号。1978年(昭和53)に制定、翌年に施行された。この法律により、無限連鎖講(ねずみ講)は刑事罰をもって禁止された。
無限連鎖講(ねずみ講)とは、金品を納めて組織の会員となり、その下に2人以上の会員が加入すると、下位の会員が納めた金品から、自分が納めた以上の配当を受ける。その下位に加入した会員の下に、さらに2人以上の会員が加入していくというように、加入者がピラミッド型に無限に増大してゆくことを前提とした金品の配当組織をいう。すべての加入者が自己の支出した額以上の利益を得るためには、下位の加入者がねずみ算式に無限に増えることを前提とするが、それはありえないので、ねずみ講は必ず破綻(はたん)し、組織の破綻によって下位の多数の加入者が多額の経済的損失を受けることになる。しかし、組織の上位に進むことによって多大の利益を受けることができるため、著しく射幸心をあおり、その結果、組織は急速に拡大し、多数の被害者を生じて破綻する。
1960年代なかば(昭和40年代)に入ってこの種の組織の活動が活発となり、多大の被害者を生ずるようになったため本法が制定されたが、当時は「金銭」を用いたねずみ講だけがこの法律の対象とされた。しかし、国債を用いたねずみ講が行われるなどの事件がその後発生し、1988年の法改正が行われた。これにより、金銭だけでなく、金銭以外の「財産権を表彰する証券又は証書」を用いたねずみ講も本法による刑事罰の対象となった。
無限連鎖講を開設または運営した者には3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはそれらが併科され(5条)、業として加入の勧誘をした者は1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる(6条)、さらに、単に加入を勧誘しただけの者も20万円以下の罰金に処せられる(7条)。
本法で禁止の対象となるのは、金品(財産権を表彰した証券または証書を含む)を用いた場合で、その他の商品を用いた連鎖販売取引(マルチ商法)は、本法の刑事罰による禁止の対象となっていないが、特定商取引法第33条以下は、勧誘に際しての禁止事項を規定するなど、事実上の禁止といってよい厳しい規制を定めている。
[伊藤高義]
『青年法律家協会神奈川支部編『悪徳商法にご用心』(1988・日本評論社)』▽『全国消費生活相談員協会著『マルチ商法のマジック』(1993・全国消費生活相談員協会)』▽『坂井清昭著『マルチ商法問題の法律と実際』(1995・ダイヤモンド社)』▽『村千鶴子著『Q&Aこれで安心!改正特定商取引法のすべて』第2版(2008・中央経済社)』