改訂新版 世界大百科事典 「ノコギリソウ」の意味・わかりやすい解説
ノコギリソウ
sneezewort
Achillea alpina L.
東アジアの北部から北アメリカの温帯に広く分布するキク科の多年草で,日本では本州と北海道の山地の草原にふつうに生える。地下茎は横にはい,よく発達する。茎は叢生(そうせい)し,高さ1mあまりに達する。葉は無柄で,幅7~15mm,長さ6~10cm,櫛(くし)の歯状に中裂~深裂し,裂片には鋭鋸歯がある。花期は7~9月。茎頂に密な散房花序をつける。舌状花は1頭花に5~7個あり,白色である。瘦果(そうか)は長さ3mmで,毛がなく,冠毛もない。すべての小花は対応する長楕円形で,膜質の鱗片状苞葉を有する。ノコギリソウは観賞用として古くから栽培されるとともに,健胃強壮剤,痔病の治療などの薬用や,芳香油,香料としても栽培されてきた。属名Achilleaはギリシアの英雄アキレスがセイヨウノコギリソウの薬効を発見したという伝説に基づいてつけられたものである。
執筆者:小山 博滋
観賞用
園芸的にノコギリソウの名で多く栽培されるのは,ヨーロッパ,アジア,北アメリカに分布するセイヨウノコギリソウA.millefolium L.(英名milfoil,yarrow)の改良種が多い。花房が大きく,花期も初夏から秋へかけて長期間咲き続ける。花色は白色のほか,淡紅色,紅色などがあり,花壇用のほか切花としても使われ,また,薬用としても利用される。ヨーロッパでは古くから魔女がまじないに用いるとされ,忌み嫌われたが,一方で魔よけや恋占いにも用いられた。花ことばは〈論争〉〈けんか〉。これとは別種で,黄色花を咲かせるキバナノコギリソウA.filipendulina Lam.がある。これはカフカス原産の耐寒性多年草で,草丈は1m以上となり,茎は強直で直立し,花房は大きく径15cm近くとなる。このほか,黄色花で草丈20cm程度のヒメノコギリソウA.tomentosa L.もときに栽培される。
いずれも宿根草で3~4月に株分け苗を植えるが,セイヨウノコギリソウは,5月ごろに種子をまいて育てれば翌年より開花する。日当りと排水のよい所ならばどこでもよく育ち,防寒の必要はない。
執筆者:柳 宗民
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報