ハイジャック(その他表記)hijack

翻訳|hijack

デジタル大辞泉 「ハイジャック」の意味・読み・例文・類語

ハイジャック(hijack)

[名](スル)運行中の乗り物、特に航空機を実力で乗っ取り、その運航を支配すること。スカイジャック

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精選版 日本国語大辞典 「ハイジャック」の意味・読み・例文・類語

ハイ‐ジャック

  1. 〘 名詞 〙 ( [アメリカ] hijack ) 運行中の航空機などを、武力で乗っ取ること。航空機の場合は、スカイジャックともいう。
    1. [初出の実例]「ハイジャック防止のための検査に手間どるのかも知れないが」(出典:地を潤すもの(1976)〈曾野綾子〉三)

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改訂新版 世界大百科事典 「ハイジャック」の意味・わかりやすい解説

ハイジャック
hijack

航空機を不法奪取したり,運航の自由を奪う行為を指す。ハイジャッキングhijackingともいう。ハイジャックとは,元来,アメリカで1919年の禁酒法の成立後に見られるようになった,アルコールの密輸品や密造品を運搬途中で車や船ごと奪取する行為を意味していた。飛行機乗っ取りは,30年にペルーの革命派が国内線旅客機を乗っ取った事件が最初であるといわれる(ICAOイカオ)調査)。記録に残っている最初の事件は,48年6月,キャセイ・パシフィック航空のマカオ・ホンコン間で起こった。この事件で,犯人逮捕のための銃撃戦が原因で飛行機は墜落し,主犯1人だけが生き残った。60年代になるとハイジャックは多発するようになった。60年代の顕著な傾向としては,ラテン・アメリカで唯一の親ソ国キューバを目的地とするものが多く,犯人はアメリカ合衆国在住のキューバ人,アメリカ人が主であった(1961年5月のアメリカ・ナショナル航空機のハイジャックが最初)。また,60年代末以降には,パレスティナ・ゲリラによる事件が頻発するようになった。日本では,70年3月,日本赤軍派の9人が名古屋上空で日本航空の旅客機(日航機)をハイジャックし,朝鮮民主主義人民共和国の平壌に逃亡した(よど号事件)。73年7月には,日航機がアムステルダム空港離陸後に,5人のパレスティナ・ゲリラにハイジャックされ,ドバイ空港経由でリビアのベンガジ空港に着陸し,犯人たちは乗客,乗員全員を解放後,機体を爆破し,逮捕された(ドバイ事件)。また77年9月には,日航機がボンベイ離陸後,日本赤軍を名のる5人にハイジャックされ,バングラデシュダッカに強制着陸させられ,日本で服役中の仲間6人と600万ドルを奪って,アルジェリアに逃亡した(ダッカ事件)。このような事件に対抗するために各国政府,各航空会社は予防対策をたて,乗客を空港でチェックするなどして,事件を未然に防ぐ努力をしている。
執筆者:

ハイジャックは海賊行為に類似するが,強奪された航空機は海賊船舶(航空機)とはならない点,他の船舶ではなくみずから乗船している船舶(航空機)を強奪する点,他国の管轄権の属する場所の航空機にも規制が及ぶ点などで異なるとされる。

 ハイジャックという国際犯罪の防止には,法的措置と技術的措置の連係が肝要であり,また両面にわたって国際協力が不可欠である。それはICAOを中心に推進された。まず法的措置では,1952年来のICAOの法律小委員会の審議に基づき,63年に16ヵ国によって東京条約が署名され,69年に発効した。条約は,航空機内の者が暴力またはその威嚇によって飛行中の航空機を不法に奪取,干渉,管理し,またはしようとした行為を,犯罪と認めた。しかしこの条約はハイジャック防止を直接の目的としたものではなかったため,管轄権も原則として航空機の登録国にとどまり,犯人の抑留,訴追,引渡しを義務づける直接的規定も置かれなかった。そこで70年に77ヵ国の参加登録国によって,ハイジャックの防止と処罰を直接目的としたハーグ条約が採択され翌年発効した。そこでは,着陸国,被疑者の所在国等にも管轄権が広げられるとともに,被疑者の抑留と引渡しまたは訴追とが義務づけられた。ただ政治犯と自国民の不引渡しには問題を残している(犯罪人引渡し)。

 また71年に採択され翌々年に発効したモントリオール条約は,航空機,航空施設の破壊や爆発物の持込み,その虚偽の通報をも犯罪として防止しようとする点でより広く民間航空の安全を確保しようとしているが,ハイジャックの防止からも実効性を補完させている。

 日本は,1970年のよど号事件を契機に東京条約を批准し,その国内的措置として〈航空機の強取等の処罰に関する法律〉を制定し,のちハーグ条約を批准した。この法律では,犯罪地の国内外また犯罪者の国籍を問わず,暴行,脅迫等により人を抵抗不能の状態に陥れて航行中の航空機を強取しまたはほしいままにその運航を支配した者を無期または7年以上の懲役に(1条1項,航空機奪取罪),それにより人を死亡させた者を死刑または無期懲役に処す(2条)とともに,未遂(1条2項),予備(3条)をも処罰している。また偽計,威力を用いて正常な運航を阻害した者も1年以上10年以下の懲役に処せられる(4条)。日本はまたモントリオール条約に基づき,73年に起きたドバイ事件を契機に〈航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律〉を制定し,犯罪地の国内外また犯罪者の国籍を問わず,飛行場設備等の損壊等により航空の危険を生じさせた者(1条),航空機を墜落させた者(2条),航空機を破壊した者(3条),およびそれらの未遂犯(5条)を処罰し,人を死亡させた者は刑を加重している(2条2項,3条2項)。さらに77年のダッカ事件を契機にして,機内に爆発物,銃砲刀剣類,火炎瓶等を持ち込んだ者の処罰と,航空機を強取した者が乗客等を人質にして第三者に義務のない行為を行うこと等を要求した行為の処罰とを新設した。人質による強要の罪は,のちの法改正で〈人質による強要行為等の処罰に関する法律〉に組み込まれた。

 技術的措置については,国際民間航空条約第17付属書等を骨子として,各国で防止体制の整備が進められている。日本でも,各国への条約加盟,遵守の働きかけのほか,各国との情報交換,省庁間協力,空港当局・航空会社・警察・出入国管理・税関の監視協力と点検,安全検査用機器等の開発・設置,国民への協力の呼びかけなどを実施している。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハイジャック」の意味・わかりやすい解説

ハイジャック
はいじゃっく
high jack
hijack

ハイジャッキングともいう。航空機乗っ取りのことで、法律用語では航空機強取(こうくうきごうしゅ)、航空機不法奪取という。海賊のように航空機自体の強奪を目的とせず、航空機を強制的にコントロールし、その運航を支配するのが特色である。ハイジャックは1968年より急増、72年108件と多い年は100件を超え、航空会社の大きな脅威となったが、各国の防止対策により、その後は、1か月にほぼ1件程度に減少した。ハイジャックには亡命型、政治活動型(アラブゲリラ、日本赤軍など)、異常型(無目的、衝動的なものでアメリカに多い)、不況型(世界が不況になって以来多く、身代金恐喝が常套(じょうとう)手段)などのいくつかのタイプがある。ハイジャック防止には犯人を乗り込ませないのが第一で、警察の取締り体制の強化、危険物の持ち込み防止、国際協力などの眼目がある。ガードマンや警官のパトロールと搭乗、航空機内の操縦室の施錠、金属性の武器を探知する装置、X線透視テレビ、乗客のボディー・タッチ、手荷物検査などが実施されているが、決定的な決め手がないのが悩みである。1977年(昭和52)の日本赤軍による日航機乗っ取り事件を契機として、ハイジャック防止対策が強化され、持ち込み手荷物を制限し、空港での安全チェックを厳重にし、海外危険地域の空港では、外国の協力を得て、搭乗直前に再度チェックするダブルチェックが実施されている。

 法律面の対策としては、犯人を関係国に引き渡すか、所在国で厳罰に処し、ハイジャックは引き合わないという体制をつくることが肝要である。1963年の東京条約(航空機内で行なわれた犯罪その他ある種の行為に関する条約)は、ハイジャック後の飛行とか機体・貨物の返還などを取り決めただけで、ハイジャック防止には不十分なので、70年にハーグでハイジャック防止条約(航空機の不法な奪取の防止に関する条約)が結ばれた。この条約は、ハイジャックを犯罪とし、重罰を義務づけ、広く関係国の裁判権を認め、犯人がどこへ逃げても逃げきれず重刑に処される体制をつくった。翌71年には時限爆弾などの機内持ち込み、航空機破壊や空港攻撃などの航空不法妨害行為(サボタージュ)防止のモントリオール条約(民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約)が署名された。日本は1970年の「よど号」乗っ取り事件を契機として、「航空機の強取等の処罰に関する法律」(通称ハイジャック処罰法)、東京条約第13条の実施法などを制定して東京条約に加入したのち、ハーグ条約を批准し、74年には航空危険行為等処罰法(航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律)を制定してモントリオール条約を批准した。ついで1977年ハイジャック防止対策を強化するために防止対策本部を設置し、関係法令を改正、ハイジャック犯人が人質をとり強要した場合、無期または10年以上の懲役とし、爆発物の機内持ち込みに重刑を課し、旅券の発給を厳重にすることとした。

[池田文雄]

日本の航空機で生じたおもなハイジャック

1970年3月31日の日航機「よど号」事件(名古屋上空で奪取され、日本赤軍9人平壌で降機)、同年8月19日の全日空175便事件(名古屋上空で奪取され、浜松飛行場に着陸、犯人逮捕)、72年11月6日の日航351便事件(名古屋上空で奪取され、羽田で犯人逮捕)、73年7月20日の日航北回り404便事件(アムステルダム離陸後奪取され、ドバイ空路を経てリビア・ベニナ空港で機体爆破)、74年7月15日の日航124便事件(浜松上空で奪取され、名古屋空港で犯人逮捕)、75年7月28日の全日空63便事件(松島上空で奪取され、羽田空港に着陸後犯人逮捕)、76年1月5日の日航768便事件(マニラ寄港中奪取されたが犯人は同地で逮捕)、77年9月28日の日航472便事件(ダッカ事件。日航南回り欧州線DC8がボンベイ(現ムンバイ)を離陸後、日本赤軍5人に奪取され、ダッカに強行着陸、日本政府は犯人の要求に応じ身代金として600万ドルを支払い、6人の被拘禁者を釈放、同機は10月3日ダッカを離陸し、アルジェに着陸、犯人が降機後最後の人質を解放)。

[池田文雄]

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百科事典マイペディア 「ハイジャック」の意味・わかりやすい解説

ハイジャック

暴力等の威嚇(いかく)手段による航空機の乗取り。1960年代から,国際的テロリスト集団その他による民間航空機の不法奪取事件が相次ぎ,これに対処するため国際民間航空機関(ICAO)では,1970年航空機不法奪取防止条約,1971年民間航空の安全に対する不法行為防止条約を締結,日本でも1970年航空機強取等処罰法を制定した。
→関連項目危機管理人質

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハイジャック」の意味・わかりやすい解説

ハイジャック
hijacking

元来の意味は,乗物や運送中の貨物を強奪することで,1920年代のアメリカで密造酒を輸送するトラックや船舶から積荷を強奪する行為をさした。現在狭義では,飛行中の航空機内における暴力や脅迫などの威嚇手段によって航空機を不法に奪取したり,支配する行為およびその未遂とそれらの加担行為をいう。最初の航空機ハイジャックは 31年にペルーで発生した。 68年から 70年までの間に 200件近いハイジャック事件が発生し,70年,航空機不法奪取防止条約が締結された。また空港における手荷物検査など警備も強化された。 (→ハイジャック関係法 )

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