ハイジャック(読み)はいじゃっく(英語表記)high jack

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハイジャック」の意味・わかりやすい解説

ハイジャック
はいじゃっく
high jack
hijack

ハイジャッキングともいう。航空機乗っ取りのことで、法律用語では航空強取(こうくうきごうしゅ)、航空機不法奪取という。海賊のように航空機自体の強奪を目的とせず、航空機を強制的にコントロールし、その運航を支配するのが特色である。ハイジャックは1968年より急増、72年108件と多い年は100件を超え、航空会社の大きな脅威となったが、各国の防止対策により、その後は、1か月にほぼ1件程度に減少した。ハイジャックには亡命型、政治活動型(アラブゲリラ、日本赤軍など)、異常型(無目的、衝動的なものでアメリカに多い)、不況型(世界が不況になって以来多く、身代金恐喝が常套(じょうとう)手段)などのいくつかのタイプがある。ハイジャック防止には犯人を乗り込ませないのが第一で、警察の取締り体制の強化、危険物の持ち込み防止、国際協力などの眼目がある。ガードマンや警官のパトロールと搭乗、航空機内の操縦室の施錠、金属性の武器を探知する装置、X線透視テレビ、乗客のボディー・タッチ、手荷物検査などが実施されているが、決定的な決め手がないのが悩みである。1977年(昭和52)の日本赤軍による日航機乗っ取り事件を契機として、ハイジャック防止対策が強化され、持ち込み手荷物を制限し、空港での安全チェックを厳重にし、海外危険地域の空港では、外国の協力を得て、搭乗直前に再度チェックするダブルチェックが実施されている。

 法律面の対策としては、犯人を関係国に引き渡すか、所在国で厳罰に処し、ハイジャックは引き合わないという体制をつくることが肝要である。1963年の東京条約(航空機内で行なわれた犯罪その他ある種の行為に関する条約)は、ハイジャック後の飛行とか機体貨物返還などを取り決めただけで、ハイジャック防止には不十分なので、70年にハーグハイジャック防止条約(航空機の不法な奪取の防止に関する条約)が結ばれた。この条約は、ハイジャックを犯罪とし、重罰を義務づけ、広く関係国の裁判権を認め、犯人がどこへ逃げても逃げきれず重刑に処される体制をつくった。翌71年には時限爆弾などの機内持ち込み、航空機破壊や空港攻撃などの航空不法妨害行為(サボタージュ)防止のモントリオール条約(民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約)が署名された。日本は1970年の「よど号」乗っ取り事件を契機として、「航空機の強取等の処罰に関する法律」(通称ハイジャック処罰法)、東京条約第13条の実施法などを制定して東京条約に加入したのち、ハーグ条約を批准し、74年には航空危険行為等処罰法(航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律)を制定してモントリオール条約を批准した。ついで1977年ハイジャック防止対策を強化するために防止対策本部を設置し、関係法令を改正、ハイジャック犯人が人質をとり強要した場合、無期または10年以上の懲役とし、爆発物の機内持ち込みに重刑を課し、旅券の発給を厳重にすることとした。

[池田文雄]

日本の航空機で生じたおもなハイジャック

1970年3月31日の日航機「よど号」事件(名古屋上空で奪取され、日本赤軍9人平壌で降機)、同年8月19日の全日空175便事件(名古屋上空で奪取され、浜松飛行場に着陸、犯人逮捕)、72年11月6日の日航351便事件(名古屋上空で奪取され、羽田で犯人逮捕)、73年7月20日の日航北回り404便事件(アムステルダム離陸後奪取され、ドバイ空路を経てリビア・ベニナ空港で機体爆破)、74年7月15日の日航124便事件(浜松上空で奪取され、名古屋空港で犯人逮捕)、75年7月28日の全日空63便事件(松島上空で奪取され、羽田空港に着陸後犯人逮捕)、76年1月5日の日航768便事件(マニラ寄港中奪取されたが犯人は同地で逮捕)、77年9月28日の日航472便事件(ダッカ事件。日航南回り欧州線DC8がボンベイ(現ムンバイ)を離陸後、日本赤軍5人に奪取され、ダッカに強行着陸、日本政府は犯人の要求に応じ身代金として600万ドルを支払い、6人の被拘禁者を釈放、同機は10月3日ダッカを離陸し、アルジェに着陸、犯人が降機後最後の人質を解放)。

[池田文雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハイジャック」の意味・わかりやすい解説

ハイジャック
hijacking

元来の意味は,乗物や運送中の貨物を強奪することで,1920年代のアメリカで密造酒を輸送するトラックや船舶から積荷を強奪する行為をさした。現在狭義では,飛行中の航空機内における暴力や脅迫などの威嚇手段によって航空機を不法に奪取したり,支配する行為およびその未遂とそれらの加担行為をいう。最初の航空機ハイジャックは 31年にペルーで発生した。 68年から 70年までの間に 200件近いハイジャック事件が発生し,70年,航空機不法奪取防止条約が締結された。また空港における手荷物検査など警備も強化された。 (→ハイジャック関係法 )

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