原義は、中世ヨーロッパの農民が領主の横暴に対してサボ(木靴)で収穫物をふみにじったことを意味し、元来は破壊行為を指した。
ストライキやボイコットと並ぶ,労働者が行う争議戦術の一つ。通例,日本では怠業と同義的に用いられるが,本来はさらに広い概念であり,およそ次の3種類に分類される。第1は,使用者の機械設備を故意に故障させ破壊する,積極的サボタージュである。サボタージュの語源はこの類型の行為にあるが(中世ヨーロッパの農夫が領主の不当な扱いに抗議して収穫物をサボsabot(木靴)でふみにじったことに由来。ただし異説もある),正当な争議行為ではなく,今日ではあまり行われない。第2は,使用者に不利な事実を公表宣伝し,使用者に損害を与える,いわゆる暴露戦術である。第3は,不完全な労務の提供によって正常な生産や営業を阻害する,消極的サボタージュである。日本語の〈怠業〉はこれにあたる。怠業の最も典型的なものは,通常の作業に従事しつつも,作業速度を通常よりも故意に低下させるスロー・ダウンslow-downである。また,義務づけられている業務の一部を労働者が履行しない不作為も,怠業の一種と考えられる。たとえば,集金業務は履行するが管理者への納金業務は履行しない電気・ガス事業などにおける納金ストとか,職制上の上下の業務連絡を切断する上部遮断スト(1952年の電産関西地本の闘争が有名)と呼ばれるものが,これにあたる。
労働者がサボタージュ戦術を採用するのは,次の二つの場合が考えられる。第1は,ストライキ戦術が有効でない場合である。不熟練労働者のストライキは,代替労働者が容易に見いだされるため,スト破りを受けやすい。これを防止するために,労働者が職場にとどまりながらも使用者に損害を与えるこの戦術が,座込みストとともに,広く採用された。第2は,ストライキ戦術が違法化され,また労働者がストライキを行使する力のない場合である。たとえば争議権がない日本の国鉄(現JR)労働者は,スロー・ダウンの一種である順法闘争戦術,すなわち闘争期間中だけ安全規則を杓子定規に守り,結果として列車の運行を遅らせダイヤを混乱させる戦術を,しばしば採用した。
日本では怠業が消極的な労働能率の低下にとどまる限りは正当な争議行為であるが,積極的な破壊・妨害行為に出る場合は違法な争議行為となり刑事・民事上の免責を奪われる。また国家公務員,地方公務員,公共企業体等または地方公営企業の職員またはこれらの組合は,国家公務員法等で怠業または怠業的行為を禁止されている。いかなるサボタージュが合法(違法)かは,法律上論議の分かれるところである。
→争議行為
執筆者:遠藤 公嗣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
労働者の争議手段の一つ。通常、怠業の意味で理解されているが、語源については諸説ある。代表的な説は、フランス語で木靴(きぐつ)のことをサボsabotといい、争議のとき木靴を機械に投入して生産を停止したり、木靴を履き、カタカタさせて能率を低下させたところから、労働者が行う怠業的行為にこの名がついたとする。
サボタージュには、(1)機械や製品などの破壊をしたり、故意に不良品を生産することにより業務を妨害する積極的サボタージュ、(2)使用者や製品の悪口を外部に向けて行うことにより業務を妨害する開口サボタージュ、(3)外形的には仕事を継続しながら、意識的に使用者の指揮命令に部分的に服しない消極的サボタージュがあり、日本では(3)の意味で用いるのが普通である。時限ストを繰り返したり、部分スト(組合員の一部だけに行わせる)を職場ごとで交替して行う場合や、使用者および職制への連絡をストップする上部遮断スト、集金した金銭を労働組合のほうで保管する納金ストも一種の消極的サボタージュである。この争議戦術は労働者が職場にとどまるものであるため、使用者の争議対抗行為を封じやすい。また、労働者がいちおう仕事をしているので賃金カットも困難である。消極的サボタージュ以外は正当な争議行為といえる場合は少ない。
[吉田美喜夫]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…これもまた,一材からのくり抜きで作られるが,下駄の一種とも考えられる。なお,フランス語のサボタージュは日本では怠業の意に用いられるが,本来労働争議の際,サボで工場の床を踏みならしたり,機械や製品を故意に打ちこわしたりしたことに由来する。【近藤 四郎】。…
…これを避けつつ,当局の業務運用に打撃を与えることによって労働組合側の交渉力を強めようとして考案されたのが順法闘争で,業務のルールを完全に順守することにより作業能率を落とす方法である。争議戦術としては一種のサボタージュである。鉄道部門においてこの種の戦術が採用されたのは古く,1898年日鉄機関方が賃金引上げや職名改正の要求でストライキを行った(日鉄機関方ストライキ)さい,〈規定に反し無理勉強せざること〉が争議の戦術としてあげられている。…
…クラフト・ユニオンの時代にはストライキはその職場を離れて他に転職する意味あいが強かったが,機械化が進行してスト破りが容易になったため,職場に座り込むシット・ダウン闘争が起こり,現在のような形態が一般的になった。(2)怠業(サボタージュ) 故意に労働の速度や質を低下させる闘争で,法規や使用者の態度によってストライキを行うことが困難な場合にしばしば行われる。日本の国鉄の順法闘争もその一つであったが,最近諸外国にも波及している。…
※「サボタージュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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