改訂新版 世界大百科事典 「はずみ車」の意味・わかりやすい解説
はずみ車 (はずみぐるま)
flywheel
大きな慣性モーメントを利用して回転エネルギーの蓄積,放出を行う回転体。フライホイールともいう。物体が一つの軸のまわりに回転運動をするときは,慣性モーメントと回転速度の2乗に比例する大きさの運動のエネルギーをもつ。したがって,回転運動をしている機械部品(以下,回転体と呼ぶ),例えば,蒸気タービンや電動機の回転子,内燃機関のクランク軸,あるいは一般機械中の歯車,ベルト車などはすべて回転中には運動のエネルギーをもつ。これらの回転体の慣性モーメントが大きいことは,回転体の加速,減速に時間を要するという欠点にもなるが,逆に,加速回転力あるいは抵抗力が変動しても回転速度の変動が少なくてすむという利点にもなる。これは加速回転力が作用している期間では回転体が運動エネルギーを蓄積し,減速(抵抗)回転力が作用する期間には,それ以前に蓄積した運動エネルギーを放出しながら減速(抵抗)回転力に打ち勝って回転を続けるので,回転速度の変動の幅が小さくてすむからである。例えば,往復動内燃機関のクランク軸のように,加速に有効な回転力(回転トルク)が作用するのは爆発行程だけで,圧縮行程では減速効果をもつ抵抗力(抵抗トルク)を受けるような場合には,クランク軸にある程度以上の慣性が存在しなければ,なめらかな回転運動を続けることが不可能になる。はずみ車は,機械中の回転体に付加して,必要な慣性モーメントを与えるために,特別に設計製作された車である。このため,はずみ車は慣性要素あるいは運動エネルギー蓄積要素とも呼ばれている。
はずみ車は回転体の速度変動を小さくおさえるという前記の用途のほかに,蓄積した運動エネルギーをねじあるいはクランク機構を用いてとり出して,薄板のプレスのような機械的仕事を行う用途もある。後者のような用途の新しい例としては,はずみ車に蓄積した運動のエネルギーにより自動車を走らせる試みもある。
→慣性モーメント
執筆者:北郷 薫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報