蒸気タービン(読み)じょうきたーびん(英語表記)steam turbine

翻訳|steam turbine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「蒸気タービン」の意味・わかりやすい解説

蒸気タービン
じょうきたーびん
steam turbine

高圧蒸気のもつ熱エネルギーを羽根車の回転という速度エネルギー、つまり機械的仕事に変換する原動機関。ボイラーで発生した高温・高圧の蒸気をノズルまたは固定羽根から噴出、膨張させて羽根車に当て、または羽根車の中でさらに蒸気流を加速して、その反動によって羽根車を回転させる。原理的にはガスタービンと同じである。

[吉田正武]

歴史

紀元前55年にアレキサンドリアヘロンが、蒸気の送り込まれている球に互いに反対方向を向いた吹き出し口をつけ、蒸気の吹き出す反動で球が回転する装置を考案した。これは反動タービンタービンの始まりといわれている。実際に機械を動かしたタービンは、1629年イタリアのブランカGiovanni Branca(1571―1645)がつくった機械で、水平に回転する円板の周りに羽根をつけ、それに細い口から蒸気を吹き付けて回転させ、鉱石を砕くのに使用された。これは衝動タービンの始まりである。効率のよい実用的なタービンはなかなかできなかったが、いくつかの試みがなされた。たとえば1815年に、高圧蒸気機関をつくったイギリスのリチャード・トレビシックはヘロンと同じ原理の反動タービンをつくった。また1846年にはイギリスのジェームス・ジャミーソン・コーデJames Jamieson Codesとエドワード・ロックEdward Lockeは、ブランカと同じ原理の32馬力のタービンをつくり、のちに150馬力のタービンを船の原動機として用いた。その間に、蒸気ほど高速流にならない水力利用のタービンが大発展をし、近代的な高効率タービンがつくられた。これらを参考にして本格的な高効率蒸気タービンが開発された。

 1888年スウェーデンカール・グスタフ・パトリック・ド・ラバルは、高温高圧蒸気のエネルギーをほぼ完全に速度エネルギーに変換するノズルを完成した。このノズルは初め断面がしだいに細くなり、次に太くなる先細(さきぼそ)末広ノズルで、ラバルノズルといわれ、出口の蒸気流速は毎秒1000メートル以上となる。このノズルを数個、対称形の羽根をつけた回転羽根車の周りに置き、高速蒸気流を吹き付け、速度エネルギーの大部分を衝撃力で回転羽根車の回転力に変換する。この衝動タービンはかなりの高圧蒸気でも1段で膨張させることができるのでノズル出口の蒸気流速は高く、また回転羽根車の周速がノズル出口の蒸気流速の約半分のとき、もっとも効率が高くなるので、羽根車はきわめて高速で回転し、回転数は毎分4万回以上になる。したがって振動と遠心力が問題であったが、ド・ラバルは軸を細くして、低速で振動しても高速回転では振動がないようにくふうし、さらに羽根車の断面は軸のところでもっとも厚く、先端に向かって薄くつくった。1897年までには、ド・ラバルはヘリカル歯車を使った減速機を考案し、発電機の駆動にも用いた。しかし、ド・ラバルのタービンは高速回転のために遠心力が大きく外径を制限され、大出力のものはつくれなかった。1895年にアメリカのチャールズ・ゴードン・カーティスはド・ラバルタービンを改良し、ノズルは1段であるが回転羽根車を多数にし、速度エネルギーを各列ごとに分割して回転力に変換するタービンをつくった。この改良で回転羽根車の周速は遅くなり、回転数は低くなったので大型化でき、出力の比較的大きいタービンもつくられるようになった。通常はノズル1段に回転羽根2列を1組にし、この組を多数組み合わせて、1920年ごろには4万馬力以上に達した。また1897年にフランスのオーガスト・ラトーが、1903年にはスイスのツェリーY. H. Zoelly(1862―1937)が、ド・ラバル型を多数組み合わせて、蒸気の膨張を何段にも分割するタービンをつくった。これも回転数は低く、大出力のタービンがつくられた。

 1884年にイギリスのチャールズ・アルジャーノン・パーソンズは、ド・ラバルとは別の原理のタービンを製作した。パーソンズのタービンは固定羽根と回転羽根の両方で蒸気を膨張させ、固定羽根を出た高速蒸気流の衝撃力と、回転羽根内で蒸気が膨張するときの反動で回転羽根車を回転させるもので、固定羽根と回転羽根が交互に置かれる。パーソンズのタービンは固定羽根と回転羽根が軸方向に環状の蒸気通路をつくり、軸流型といわれる。このタービンは蒸気通路が広く、回転数も低いため、大出力に向いている。パーソンズの設計では、羽根は回転羽根車や仕切り板に固定されずに溝にはめ込まれており、外側の筒(車室)は蒸気が膨張するにつれ段階的に太くし、回転羽根車の径も大きくし、蒸気の流速があまり高くならないように考えられている。1889年からパーソンズは一時、軸流タービンの特許を失い、蒸気が同心に置かれた固定羽根と回転羽根の間を通る半径流タービンをつくって船に使用したが、回転数が高く有効ではなかった。1896年になってふたたび軸流の特許をとり、3基の軸流タービンを積んだ高速船タービナ号を建造し、時速34ノットを記録した。こののち高速の船には蒸気タービンが使用されるようになり、1基で2万馬力以上のタービンを4基積む客船も現れた。また水力の利用できない地方では発電用として、初めにはカーティス型が、その後はパーソンズ型をつないだ4万馬力以上の蒸気タービンが使用されている。

 1911年にスウェーデンのユングストレーム兄弟Birger Ljungström(1872―1948)& Fredrik Ljungström(1875―1964)は、固定羽根がなく互いに逆回転する回転羽根の間を半径方向に蒸気が膨張しながら通り、その反動で回転力を得る蒸気タービンをつくった。これは二つの軸が逆回転するので二つの発電機が必要であるが、全体が小型になるため、中程度の出力用として使用されている。

 蒸気タービンはその後基本的には変化なく、現在も火力、原子力発電所の発電用や、大型客船や高速船の大出力の原動機として使用されている。

[吉田正武]

構造

蒸気をノズルまたは固定羽根を通して膨張させて高速の蒸気流にし、これを衝動型では回転羽根に当てて衝撃力で回転させるが、反動型では回転羽根内でも蒸気を膨張させて加速し、その反動と高速気流の衝撃力によって回転させて機械的仕事を得る。この固定羽根と回転羽根の1組を段という。蒸気タービンはこの段を多数並べて構成される。

 ボイラーからの高圧蒸気は、止め弁、調速機などで調節される絞り弁を通って蒸気室に入り、多数の段を通って膨張しながら排気室に達する。蒸気通路面積は、膨張によって蒸気の体積が増加するのに伴い大きくなっている。回転部分はタービン軸と羽根車(翼車(よくしゃ)ともいう)と回転羽根(動翼(どうよく)ともいう)からなる。回転羽根は羽根車の先端につけられ、反動を利用する形式では回転羽根の前後に圧力差があるので、車室との間を気密フィンで漏れ止めをする。車室はタービンの入る外側の部分で、固定羽根(静翼(せいよく))またはノズルを取り付ける。固定羽根は段の間の蒸気の漏れを止める仕切り板につけられ、仕切り板と羽根車は交互に置かれる。タービン軸が車室を通るところでは、軸受が軸を支えるとともに、蒸気の漏洩(ろうえい)や空気の漏入を止めるためにラビリンスパッキンなどがつけられている。なお、タービン軸からは出力を取り出すだけでなく、調速機や潤滑油などのポンプの駆動も行う。また反動を利用する形式では羽根車に軸方向の力が働くので、これとつり合う力を生じるような円板(つり合いピストン)を取り付ける。

[吉田正武]

形式

蒸気タービンはいろいろな分類が行われる。

[吉田正武]

作動方式による分類


(1)衝動タービン 衝撃力だけを用いるもので、単式、速度複式、圧力複式の三つがある。単式は1列のノズルと1列の回転羽根からなり、ド・ラバルタービンともよばれる。羽根車の回転数が高く大型化できないので小型タービンに用いられる。速度複式は1列のノズルと2列以上の回転羽根からなり、速度エネルギーの回転力への変換を何段にも行うもので、カーティスタービンともいわれる。この形式も単独では小出力にしか用いられないが、他のタービンと組み合わせるときの1段目として大出力タービンに多く用いられている。圧力複式は単式を多数並べた形式で、高圧蒸気の熱エネルギーの速度エネルギーへの変換を何段にも行うもので、大出力に適しており広く用いられている。これはラトータービンあるいはツェリータービンといわれる。

(2)反動タービン 軸流と半径流があり、回転羽根内での膨張による反動も利用する。軸流は、交互に設けられる固定羽根と回転羽根で環状の蒸気通路をつくる。通常は固定羽根と回転羽根は同一断面である。パーソンズタービンともいわれる。半径流は、同心円状に回転羽根と固定羽根あるいは回転羽根を並べ、蒸気を中心から入れ膨張させて外に出すもので、二つの回転羽根を用い互いに逆回転させるユングストレームタービンが有名である。一方が固定翼のものにはジーメンス社のタービンなどがある。半径流は小型で中出力用として用いられている。

(3)混式タービン 反動タービンと衝動タービンを組み合わせたもので、蒸気体積の小さい高圧段にカーティスなどの衝動タービンを用い、その後を反動タービンとし、大出力タービンとして広く使用されている。

[吉田正武]

出入口の蒸気の状態による分類


(1)復水タービン 排気を復水器に導いて水にして排気室を高真空にし、膨張を十分に行わせる。高効率・大出力を目的とする大型の発電用や船用に用いられる。この形式では低圧側の蒸気の体積は非常に大きくなるので、タービンを高圧段と低圧段、または高圧段、中圧段、低圧段のように分け、低圧段は2基以上にしてタービンの外径が大きくなりすぎないようにする。復水タービンのうち、蒸気をすべてタービンで膨張させて復水器に導くものは比較的小出力のタービンである。大出力のものは効率向上のため、一部の蒸気を多段タービンの途中で抽気し、ボイラーに送る水を加熱する再生タービンと、蒸気を途中で再度加熱する再熱タービンが広く用いられている。とくに大出力の発電用には再熱再生タービンが多い。復水タービンは、復水器で失う熱エネルギーがむだになる。これを利用するために考えられたのが背圧タービンや抽気タービンである。

(2)背圧タービン 排気圧力を大気圧以上とし、全排気を工場などの熱源として利用する。蒸気量の調節は出力以外の要素を加えて行うことが必要で、タービンの効率としてはすこし低くなるが、工場全体の熱効率は高い。

(3)抽気タービン 膨張途中の大気圧以上のところで蒸気の一部を抜き、これを加熱用などに使い、タービンの全段を通った残りを復水器に導くもの。タービンの効率をある程度維持しながら蒸気量を自在に調節でき、復水タービンと背圧タービンの中間である。

(4)混圧タービン 通常のタービンの途中から蒸気機関の排気などを供給して蒸気量を増すもの。

(5)排気タービン 蒸気機関などの排気だけを用いるもの。混圧タービンとともに、工場などの事業所全体の効率をあげることができる。

 なお、近年では、水蒸気以外のフロンなどの蒸気を使用するタービンが内燃機関の排気の熱エネルギーの利用などの目的で開発されているが、構造は通常の蒸気タービンと同じである。しかし、一般に蒸気タービンというときは水蒸気を用いたタービンをいう。

[吉田正武]

特徴と用途

蒸気タービンは大量の蒸気を送ることによって大出力を得ることができ、回転速度をあげれば出力当りの重量は小さくなり、また長時間の連続運転が可能で熱効率も高いなどの特徴をもつので、火力発電、船舶、工場などの大出力原動機として広く用いられている。なかでも発電用には高出力の蒸気タービンが使用され、100万キロワット程度のものまである。また排気清浄化と高効率化のためにガスタービンで発電し、排気で蒸気を発生して蒸気タービンで発電するコンバインドシステム用として35万キロワット程度のものが使用されている。船舶用としてもディーゼル機関の出力との差は小さくなったが静粛性が高いために、高速客船では5万キロワット程度のタービンが用いられている。工場用としても自家発電のほか作業用の蒸気や熱源が得られるなど、各分野での用途が多い。

[吉田正武]

『John Robert DayEngines ; The Search for Power(1980, The Hamlyn Publishing Group Ltd.)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蒸気タービン」の意味・わかりやすい解説

蒸気タービン
じょうきタービン
steam turbine

蒸気のもつ熱的エネルギーを機械的仕事に変換する一種の熱機関。高温高圧の蒸気をノズルまたは固定羽根 (静翼) により噴出膨張あるいは方向変化させて,高速の蒸気流をつくり,これを回転羽根 (動翼) に吹きつけて回転させることにより動力を得る。静翼と動翼の1組を段 stageという。回転羽根での蒸気の作動方法によって衝動タービン,反動タービンおよび両者を組合せた混式タービンの種類がある。さらに段数,流れの方向などにより軸流,半径流など種々に分類される。大出力,高効率のものがつくられ,火力発電,舶用機関などに広く使用されている。小出力の小型タービンもポンプ用,送風機用として利用されている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android