ハッブルの法則(読み)はっぶるのほうそく(英語表記)Hubble's Law

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハッブルの法則」の意味・わかりやすい解説

ハッブルの法則
はっぶるのほうそく
Hubble's Law

遠方銀河ほど速い速度でわが銀河系から後退していることを表す法則ウィルソン山天文台の100インチ望遠鏡で銀河のスペクトルからその視線速度を測っていたE・ハッブルは、1929年、いくつかの近くの銀河を除くと他のすべての銀河は、わが銀河系から遠ざかるように運動をしており、後退速度V(キロメートル/秒)とその銀河までの距離rMpc,1pcは3.3光年)との間に、VHrという比例関係が成り立っていることを発見した。ここでH比例定数で、ハッブル定数と名づけられ、2000年代初頭の観測では71km/sec/Mpcである。この比例関係は銀河の後退に関するハッブルの法則とよばれ、非常に遠方にある銀河では、後退速度Vを測定することにより、距離rを求める唯一の方法として、現在でも盛んに用いられている。

 ハッブルの法則は、宇宙膨張していることを示すもので、1922年にすでにA・A・フリードマンが、一般相対性理論に基づいて宇宙の膨張を理論的に予言していたものである。この宇宙膨張の発見は、宇宙が最初は非常に小さく高密度の状態から出発したことを意味することとなり、1946年、G・ガモフがビッグ・バン宇宙論を提唱することとなった。1965年、ペンジアスウィルソン宇宙背景放射Cosmic Microwave Background Radiation(CMB宇宙マイクロ波背景放射、宇宙黒体放射、3K放射ともいう)を発見し、ビッグ・バン宇宙論を定着させた。

 ハッブルの法則は、初め銀河の距離を変光星の周期‐光度関係に基づいて決めていたため、わが銀河系のすぐ周辺部のわずか数千万光年以内の近距離の銀河のみに限られていたが、現代では超新星の明るさや銀河団のcD型巨大楕円(だえん)銀河の明るさなどに基づく距離決定の新しい方法が開発され、数十億光年の距離にある銀河についてまでも研究することが可能となった。その結果、宇宙の膨張スピードが時間とともにどのように変化してきたのかとか、宇宙の大局的構造についての研究が大きく進み始めている。

 ハッブル定数の逆数1/Hは、宇宙膨張が始まって以来の経過時間(宇宙の年齢)を表しており、前記の値から計算すると、137億年(誤差1%)となる。この値は、球状星団の年齢や宇宙初期における元素合成の理論から導かれる年齢とは、本質的に矛盾しない値と考えられている。

 ハッブル定数の測定値が、観測方向によって大きく食い違っていることが1980年ごろにわかってきた。宇宙の膨張速度は、等方的ではなく、方向によって異なっているというのである。1990年代に精力的に調査した結果、これは銀河系やアンドロメダ銀河を含む局所銀河群が、南半球のケンタウルス座の方向に向かって秒速約600キロメートルで運動しているためであることがわかった。この運動は宇宙背景放射とよばれる電波強度の方向依存性の観測によっても確認されている。

 この運動は局部銀河群の形成以来、ケンタウルス座にある巨大な重力源(グレート・アトラクター)によって局所銀河群が重力的に引っ張られ続けたためと考えられている。しかし、この重力源は、ちょうど銀河面(天の川)の方向にあって、暗黒星雲で光が遮られているため観測できず、その存在はいまだ確認されていない。21世紀初頭に解決が期待されている観測テーマの一つである。

[若松謙一]

『堀源一郎著『宇宙はどこまで広がっているか』(1986・岩波書店)』『ロジャー・B・カルバー著、長谷川俊雄訳『実験天文学ワークブック』(1988・恒星社厚生閣)』『松田卓也編『現代天文学講座10 宇宙とブラックホール』改訂版(1990・恒星社厚生閣)』『マイケル・ロワン・ロビンソン著、池内了訳『宇宙のさざなみ――最新宇宙論の舞台裏』(1995・シュプリンガー・フェアラーク東京)』『デニス・オーヴァバイ著、鳥居祥二・吉田健二・大内達美訳『宇宙はこうして始まりこう終わりを告げる――疾風怒濤の宇宙論研究』(2000・白揚社)』『ジョン・グリビン著、田島俊之訳『時の誕生、宇宙の誕生』(2000・翔泳社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハッブルの法則」の意味・わかりやすい解説

ハッブルの法則
ハッブルのほうそく
Hubble's law

遠方の銀河がわれわれから遠ざかる速さ(後退速度)はその銀河までの距離に比例するという法則。比例定数をハッブル定数という。1929年エドウィン・パウエル・ハッブルが発見した。ハッブルの法則は膨張宇宙論の観測的基礎である(→宇宙の膨張)。ハッブル定数の逆数が宇宙の年齢,すなわち宇宙が膨張を始めてから現在までの時間となる。当時ハッブルが求めた定数から,18億年という過小な宇宙の年齢を得たが,これは銀河までの距離を過小に見積もったためで,その後の観測から,現代ではハッブル定数の値は 72km/s/Mpc(1Mpc〈メガパーセク〉=326万光年)となり,宇宙の年齢はほぼ 140億年とされている。

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