アメリカのユダヤ系の理論物理学者。ロシアのオデッサ(現、ウクライナのオデーサ)に生まれ、レニングラード大学で学んだ。1928年学位を取得し、以後ボーアに認められてコペンハーゲンの彼の研究室で共同研究を、またケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所でラザフォードと研究した。その後、帰国してレニングラード(現、サンクト・ペテルブルグ)の科学アカデミーの研究員になったが、1933年、母国を離れアメリカに渡った。1934年からジョージ・ワシントン大学の物理学教授、1956年以降はコロラド大学教授を務めた。
彼の最初の独創的な研究は、1928年に放射性原子核からα(アルファ)粒子が放出される機構を、波動力学のトンネル効果によって説明したものであった。1930年には原子核破壊のためには、α粒子より陽子を使うほうが有利であること、また、重い原子核に液滴模型を使用することを提案した。一方、1929年には原子核に対する知識に基づいて、アトキンソンRobert d'Escourt Atkinson(1898―1982)、ハウターマンFriedrich Georg Houtermans(1903―1966)と協力して、太陽のエネルギーが熱核反応によるという結論を出した。さらに宇宙における元素の起源を考察し、その理論は宇宙論に利用された。このほかに分子生物学におけるDNAの理論に対する貢献もある。学問的な論文を発表する一方で、『不思議の国のトムキンス』をはじめ多くの科学に関する通俗的な解説書を著し、一般の人々に科学を理解させるうえで大きな功績を残した。
[佐藤 忠]
『鎮目恭夫他訳『ガモフ全集』全16巻(1950~1959・白揚社)』
ロシア生れのアメリカの物理学者,著作家。革命後レニングラード大学を卒業しヨーロッパへ留学,ゲッティンゲン,コペンハーゲン,ケンブリッジで当時完成期にあった量子力学の研究に参加し,原子核現象に量子力学を最初に適用する業績(α崩壊のトンネル理論)をあげ,1931年に帰国したが,34年にソ連からアメリカへ亡命しワシントン大学教授となる。核反応による星の誕生と進化(ビッグバン),元素の起源について先駆的業績をあげ,また生物のDNA分子の4種の塩基からなる3文字符号が遺伝情報の基礎であることを最初に唱えた。《不思議の国のトムキンズMr.Tompkins in Wonderland》(1939)で相対性理論の通俗解説で名をあげ,近代的な物理・天文・地学・生命科学の平明で興味深い啓蒙書や教科書的副読本を数々世に送った。軍事研究には終始参加しなかったが,科学と政治・経済の関係に立ち入らない点でL.ホグベンやJ.D.バナールとは対照的であった。
執筆者:鎮目 恭夫
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…崩壊の速さは原子核によって異なり非常に広い範囲にわたっているが,崩壊定数λとα線の空気中の飛程Rとの間にはlogeλ=A+B logeR(A,Bは各放射性崩壊系列に固有の定数)という簡単な関係(ガイガー=ヌッタルの法則)がある。α崩壊の理論的説明は,G.ガモフ,E.U.コンドンとR.W.ガーニーによって,残りの核から受けるクーロンポテンシャルのもとでのα粒子の運動を量子力学的に解くことによってなされ(1928),これによればα崩壊は,α粒子がその波動性のためポテンシャル障壁をトンネル効果によって抜け出てくる過程と考えられる。【山崎 敏光】。…
…当時までの膨張宇宙論は,デ・シッテルやA.S.エディントンを初めとした相対論的宇宙論の数学的研究であり,中身の物質や放射にはほとんど目が向けられなかった。フリードマン・モデルに立って内容物の進化,すなわち宇宙の進化と本格的に取り組んだのはG.ガモフで,ビッグバン直後の熱い宇宙における元素の起源を論じたαβγ理論(1946ころ)もその一つである。ガモフが採った熱い宇宙が実証されたのは,3K宇宙背景放射が検出され,それが黒体放射であることが確かめられたからである。…
… トンネル効果の可能性を最初に指摘したのはJ.R.オッペンハイマーであり(1928),水素原子に強い電場をかけたとき,電子がクーロン場の障壁を透過して外部に放出される確率を論じた。同じ年,G.ガモフ,R.W.ガーニーおよびE.U.コンドンは原子核の放射性崩壊の際,α粒子(ヘリウムの原子核)が原子核から放出される過程(α崩壊)をトンネル効果として説明した。固体におけるトンネル効果の最初の実証は,1957年江崎玲於奈によって与えられた。…
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