ハネカクシ(読み)はねかくし(その他表記)rove beetle

翻訳|rove beetle

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハネカクシ」の意味・わかりやすい解説

ハネカクシ
はねかくし / 隠翅虫
rove beetle

昆虫甲虫目ハネカクシ科Staphylinidaeの昆虫の総称。世界各地に分布しており、もっとも大きな科の一つで、現在までに知られた種類はおよそ3万といわれ、日本からも1000種近くが記録されている。類縁としてはシデムシ類に近い。体長0.5~30ミリメートル。ほとんどは体が細長く、上ばねは短小で先端が切断状、後ろばねはその下に畳み込まれ、腹部背面は大半露出し硬化している。しかし、ヨツメハネカクシ類Omaliinaeなどでは上ばねが長く、完全に腹部を覆うクロモンシデムシモドキTrigonodemus lebioidesのような種もある。また、微小種には幅広い卵形か菱(ひし)形のマルケシハネカクシ属Oligotaなどもある。脚(あし)は比較的短いが行動は比較的すばやい。夜行性の種類が多いが、生活はいろいろで、昼間花にくるハイイロハネカクシEucibdelus japonicusなどもあり、肉食のことが多いが、草食や腐敗食のものもある。ごみや落ち葉の中、石の下、枯れ木の皮下、動物の巣などにすむもの、キノコ・動物の死体や糞(ふん)に集まるものなど多くの種類があり、海岸にも海藻の堆積(たいせき)の下にいるもの、砂に孔(あな)を掘ってすみ、塩田に被害を与えるカワベハネカクシ属Bledius、満潮には海につかる石の下にすむ種類などがいる。アリシロアリと共生するものには、奇妙な形のものや、ハケゲアリノスハネカクシ属Lomechusaのように蜜腺(みつせん)を伴う毛束があり、それをアリになめさせるものなどもある。夜、灯火にくるものにはセスジハネカクシ属Oxytelus、コガシラハネカクシ属Philonthus、体液が人体にみみずばれをつくるアオバアリガタハネカクシPaederus fuscipesなどがある。

 ハネカクシ科は、多くの亜科や族に分けられているが、日本にいるおもな類は、セスジチビハネカクシ、ヒラタハネカクシ、セスジハネカクシ、ヨツメハネカクシ、ツツハネカクシ、オオキバハネカクシ、メダカオオキバハネカクシ、メダカハネカクシ、アリガタハネカクシ、コガシラハネカクシ、オオハネカクシ、キノコハネカクシ、チビハネカクシ、ヒゲブトハネカクシなどである。

[中根猛彦]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ハネカクシ」の意味・わかりやすい解説

ハネカクシ (隠翅虫)
rove beetle

甲虫目ハネカクシ科Staphylinidaeに属する昆虫の総称。世界から約3万種,日本からは約900種が記録されているが,今後の研究で多くの新種が記録されると見られている。上翅は通常著しく短く,後翅はその下に細かくたたみこまれている。大きく裸出した腹部は上方へ自由に曲げることができる。体長10mm以下の小型種が多い。成虫幼虫ともに地面を歩き回って昆虫などの小動物を捕食するが,食菌性を考えられる種類も少なくない。落葉枯草の下,渓流や川など水辺のごみの下,海岸の海藻の下などに見いだされるが,花や動物の糞,死骸などにもよく集まる。また一部の種は体が扁平で枯木の樹皮下に生息する。特殊な生活をするものとして,アリやシロアリの巣の中にすむもの,哺乳類などの大型動物の体外に寄生するものなどが知られている。オオハネカクシCreophilus maxillosusは体長20mmあまりの個体もあって,日本産の種類の中ではもっとも大きい。腐肉に集まりうじなどを捕食する。メダカハネカクシ類Stenusは水辺で生活し,体長5mm内外。水に落ちると尾端からの分泌物で水面をすべるようにして岸にたどりつく。毒液をもつことで知られるアオバアリガタハネカクシも湿地に多い。アバタウミベハネカクシ,アカウミベハネカクシ,ウミベハネカクシなどは各地の海浜に見られる。オオキバハネカクシ類Oxyporusは大きなあごをもち,ヒラタケなどのキノコに見られる。この科の幼虫は一般に発達した胸脚と腹部末端に2環節からなる1対の尾突起をもつ。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ハネカクシ」の意味・わかりやすい解説

ハネカクシ

ハネカクシ科に属する甲虫の総称。大部分の種は前翅が著しく短く,後翅はその下に細かくたたんで収められるので,腹部の大部分は露出し,一見ハサミムシに似る。体長は2〜30mmで2万種以上あり,昆虫の中の最大の科の一つである。普通,陰湿な場所を好み,汚物に多く集まるが,花にくるもの,海岸の岩礁にすむもの,アリやシロアリなどと共生する種類もある。人間生活と関係ある種類は少ないが,アオバアリガタハネカクシなどは体液中にペデリンを含み,人の皮膚に炎症を起こさせる。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハネカクシ」の意味・わかりやすい解説

ハネカクシ
Staphylinidae; rove beetle

鞘翅目ハネカクシ科の昆虫の総称。微小ないし中型の細長い甲虫で,普通上翅は短く,先端が切断状になっていて長い腹部の大部分が露出するが,なかには腹端まで達するものもある。触角は糸状で原則として 11節から成り,明瞭な球稈を欠く。腹部の背板は3節以下は完全に硬化している。シデムシに近縁で,全世界から2万 5000種以上が知られる。地上にすむものが多いが,朽ち木内やキノコ,植物上にすむもの,アリやシロアリの巣に共生するものなどもある。多くは肉食性であるが,腐敗動植物質を食べるものや植食性のものも少くない。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

ビャンビャン麺

小麦粉を練って作った生地を、幅3センチ程度に平たくのばし、切らずに長いままゆでた麺。形はきしめんに似る。中国陝西せんせい省の料理。多く、唐辛子などの香辛料が入ったたれと、熱した香味油をからめて食べる。...

ビャンビャン麺の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android